#63 陸上競技 ロジスティード 能條 学 氏

ニューイヤー駅伝を戦うために。ロジスティード陸上部が積み上げた「距離」が結果につながるまで

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2025.12.25

目次

2025年の東日本実業団駅伝で初優勝を成し遂げたロジスティード陸上部。
若手主体のチームを率いる能條学ヘッドコーチは、「走行距離」を積み上げた土台の強化が確かな成果と自信へと結実したと語ります。

次なる舞台はニューイヤー駅伝、目標は“8位入賞”。
チームが今どこに立ち、どのように選手の成長を支えているのか——指導の裏側に迫りました。

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東日本実業団駅伝優勝を支えた「走行距離」という土台

先日の東日本実業団駅伝優勝おめでとうございます。今回の勝因をお聞かせください。

東日本では21~23年に3年連続で3位を取っていますが、目標は今回も変わらず「3位」だったんです。だから選手たちにも特に「優勝狙うぞ!」といった話は全くしていませんでした。
ただ、9月末から10月初めにかけて出場した記録会と、その後の合宿を経て選手の調子が上がり、タイムトライアルでも全体的に例年と比較して『これはもしかしたら良いかもしれないな』と感じていて。別府監督とも選手の走り具合に、「良すぎて逆に怖いですね」と話すほど手応えがありました。
結果として“練習通りの走り”を本番で発揮し、優勝につながりました。これは、選手自身の力がしっかりと実を結んだ証拠だと思います。また何より故障者が少なかったことも要因だと思いますね。
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大会に向けた調整についてはこれまでと変化はありましたか。

今年はチーム全体として「走行距離の底上げ」ができた一年でした。
単に距離を増やしたというより、長い距離を踏める“身体の強さ”を持つ選手が増えた印象があります。
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距離を軸に築く、ロジスティード陸上部のチームづくり

ロジスティード陸上部のチーム遍歴について教えてください。

社名がロジスティードになってから3年目になりますが、ロジスティード陸上部の前身は、日立電線マラソン部にあります。その後、チームが日立物流へ譲渡されてからはマラソンや駅伝にこだわらず、選手の個性や希望を尊重し、幅広い種目へ挑戦するスタイルへと変化しました。しかしその結果、駅伝での成績は徐々に下降してしまいました。
そこで2020年に別府監督を迎え、「駅伝で勝てるチームづくり」を改めて軸に据え、現在の体制となりました。体制が変わった当初は考え方や方針がガラッと変わったので戸惑う選手もいたと思いますが、この体制になって6年、ようやく浸透してきたと感じます。
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現在のチーム体制についても伺いたいです。

チーム専属のスタッフはコーチやマネージャー含め5名いて、あと管理栄養士がいます。選手は16名所属しています。
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今のチームでの注目選手といえば誰を挙げますか。

やはりキャプテンの四釜 (峻佑 選手)ですね。先程話した走行距離が増えている件も、彼がそこへの必要性を感じて率先して練習をしてくれました。まだ3年目ですけど、それよりも若い選手がたくさんいるので、良い見本になってくれています。
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全体的に若いチームですね。

この前の東日本を走ったメンバーの平均年齢が23.3歳だったので結構若いですね。
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若い選手を育てる上で、能條ヘッドコーチが重要視されていることはありますか。

チームの根幹となるのは、「距離を踏み、土台を強化する」という哲学です。
走行距離は全ての土台となる基礎です。その上にどれだけ積み上げられるかが強さを決めると、常々選手たちにも話しています。
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距離を踏むことは、選手の“身体への負担”も増えてくると思うのですが、どのようなサポートをされているのでしょうか。

外的ケアでは選手個々で自分に合うトレーナーや、毎週クラブハウスに来てもらうトレーナーの治療を受け、内的ケアでは管理栄養士による食事や栄養によるサポートを行っていますが、どちらも本人が自分の体をよく把握することが大切です。
つまりサポートも辿り着くところは他力ではなく“自力”になります。
これは意識の問題になりますが、練習の継続や距離が増える分重要になってくるのは、
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この“前後の準備”こそが、練習を積む上で最も重要になります。
また、日々の練習に耐えうる身体作りも重要になるので、定期的にパーソナルトレーナーに来てもらい、身体作りのサポートをしてもらっています。これは本人が必要性を感じて取り組まないと効果がないと考えているので、サポートを受けるかどうかは選手に委ねています。
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地域とともに歩む、松戸市との連携

拠点である松戸市とも連携した活動を多くされている印象があります。

社会貢献、地域貢献については積極的に取り組むというのが会社の方針なので、その中で松戸市と連携協定を結んでいます。
小学生の陸上教室や、市内で開催されるマラソン大会に出場する子どもたちに向けた練習会等、地域に根ざす陸上チームとして、私たちにできることがあれば積極的に取り組んでいきたいと考えています。
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ロジスティードと松戸市の連携、松戸市のページはこちら
陸上競技を通じて地域振興や地域貢献に資する取り組みを強化するために、令和3年10月に連携協定を締結し、連携事業に取り組んでいます。
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日々の記録と振り返りが、勝利を引き寄せた

『Atleta』導入のきっかけを教えて下さい。

元々別のフォームを使って管理をしていたのですが、欲しいデータを取得することへの難しさを感じていました。そんな中でサポートを受けている日本体育大学の先生から『Atleta』を紹介してもらいまして、それがサービスを知ったきっかけでした。
『Atleta』を使うことで、選手の走行距離や体調、ケガの状況等、年間を通してどういった波があるのか、また血液状態や練習状況、気象条件等も含めて選手それぞれの傾向が見えてくると思ったので導入を決めました。
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実際に導入してみていかがでしたか?

実は導入当初は『Atleta』への入力率が約50%と低く、十分なデータ活用ができていませんでした。この夏からは選手にも協力してもらって毎日入力するようにしています。
これからの蓄積データを元に推移や傾向を見ていけたらと思っています。
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具体的にどんなデータを入力してもらっているのでしょうか。

走行距離や睡眠時間、あとは体調や気になる部位等は必ず入れてもらうようにしています。
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蓄積したデータは、チーム外の専門家の方と共有されることもありますか?

そうですね。日本体育大学の先生に、1年に一度フィードバック(サポート)してもらっています。そこではチーム全体に向けたフィードバックと、希望する選手には個々のフィードバックをいただきます。スタッフについては日ごろから先生と情報交換を行っているので、何かあれば確認を取り合っています。
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データの蓄積以外に、日々『Atleta』を使う中で感じた効果等あれば教えてください。

『Atleta』への入力は、選手にとって“毎日の振り返り”そのものになります。これはとても重要なことで、夏から入力を促していますが、振り返る時間を作れていることが毎日の“準備”へと繋がり、今回の東日本優勝の要因のひとつになっていたのではないかなと感じています。
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『Atleta』のコメントがコミュニケーションのきっかけに

選手と、監督やコーチとのコミュニケーションはどんな距離感で取られているのでしょうか。

別府監督は選手と気さくに話しをするタイプなので、普段からコミュニケーションは取れていますが、私や年齢の近いマネージャーが間に入り、選手の声を吸い上げてチーム内で共有しています。その積み重ねで、選手の状況を把握できる体制を整えています。
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思っていたよりも指導者と選手の距離感は近い印象ですね。

そうは言っても選手全員の意見を聞くのはなかなか難しいので、そこはキャプテンの四釜が上手く取り持ってくれているところもあります。
選手・スタッフとしっかりコミュニケーションを取ってくれているので、上手く回っていると思います。それこそ選手が書いてくれた『Atleta』のコメントをきっかけに、コミュニケーションが生まれることもあります。
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“8位”入賞が常連のチームを作らないと優勝するチャンスも回って来ない

ニューイヤー駅伝への目標をお願いします。

ニューイヤー駅伝の目標としては従来から8位入賞を目指しています。と言いますのも、近年優勝しているチームは限られた数チームで、その数チームはほぼ毎年8位入賞しているチームなんです。
この“8位”に常に入るようなチームを作らないと優勝するチャンスも回って来ない。例えば15位くらいのチームが優勝することは非常に高いハードルだと思うんですよね。でも常に上位でいられるチームにはいつか優勝チャンスが巡ってくると考えています。だから目標を『ニューイヤー駅伝8位』と設定しています。
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選手をスカウティングする中で、チームとして求める選手像はありますか。

一番望むのはケガが少ない、身体が強い選手です。能力はすごく高いのに、どうしても体質上ケガが多くて継続した練習ができずに苦しんでいる選手というのがいますからね。
陸上競技で成長し続けるために最も重要なのは、“練習を継続できる強い身体”だと考えています。更には、記録会ではなく大会で実績を持っている選手、つまり本番でしっかり力を出せる選手が理想ですね。
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そういった高いレベルの選手になると、他の実業団チームとも取り合いになったり...

それはもうしょっちゅうですよ。そんな時は頑張って口説きますが、振られてばかりです(笑)強いチームやブランド力が高いチームから選ばれていきますから。
そういったところに勝つためにも、やはりニューイヤー駅伝で常に8位入賞する強いチームになって、「長距離といえばロジスティードだよね」と言ってもらえるようなチームブランドを作ることが必要だと思っています。
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万全の準備と競争の中で、世界へつながるチームへ

そんなニューイヤー駅伝に向けてあと半月程ですが、残りの期間どのようにチームとして準備を進めていきますか。

これもずっと選手に言っていることですが、とにかく自滅しないことです。風邪や感染症で、良い状態でスタートラインに立てないようになることは止めようと。そのために少しでもリスクを減らす生活、体調管理をしてもらいたいです。
また、去年までは選手の人数が少なかったこともあり、少ない選手をどう良いコンディションに持っていくかが重要でしたが、今年は人数も増え、チーム内で競ってのメンバー選考がでます。この点は去年と比較して、チームとしてもレベルを上げられた部分ではあると思いますし、実際に東日本で結果を出した選手自身が自信になったと思いますから、とにかく万全な状態でニューイヤーを迎えたいです。
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チーム全体としてレベルが上ってきている中で、メンバー選考するのも難しかったのではないでしょうか?

全体的に状態が良かったので、選考で頭を悩ませる状況というのは、指導者にとっては“嬉しい悩み”でもあります。色んな基準がある中で、将来的には『Atleta』の記録も評価軸として使いたいと考えています。
選手のコンディションの波や、毎年の傾向、具体的な数値等を分析して、その時のベストなメンバー選考ができるようになるのが理想です。そこまで活用するには、あと数年分のデータ蓄積が必要ですが、将来的には実現したいと思っています。
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最後にロジスティード陸上部がこれから目指す姿を教えてください。

個人で言えば、世界陸上やオリンピックといった大きな世界大会で日の丸を背負う選手を輩出したいという思いはあります。そこに辿り着くためにはチームとしてニューイヤー駅伝で常に入賞できるレベルにならないと、個人でも勝負にならないと考えています。
常に日本のトップクラスに位置するチームをつくり、その中から世界へ羽ばたく選手を輩出したい。そして、世界で戦える選手が育てば自然と“日本一”も見えてくると思うので、その循環をつくることが私たちの目指す姿です。
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ロジスティード陸上部
能條  ヘッドコーチ(のうじょう・まなぶ)

<チームの情報>2025年11月現在
メンバー:13名
管理者:11名
Atleta導入時期:2023年11月

<チームの主な成績>
第66回 東日本実業団対抗駅伝競走大会 優勝
第65回全日本実業団対抗駅伝競走大会 4位