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2025.07.04

「反省はいらない、分析せよ」 データ×対話でつくる箱根への道

【活用事例】#56 駅伝 神奈川大学 中野 剛氏

目次

今回お話をいただいたのは、神奈川大学陸上競技部の中野駅伝監督。

チームメンバーが多い中でも指導は常に「一対一」を意識し、日々の練習後は必ず一人ひとりと挨拶、個性や状態を見極めながら、選手たちと向き合い続けています。
それを実現させているのは監督の実業団時代の経験とAtletaから得られるコメントをはじめとしたデータでした。

箱根駅伝という大舞台を目指すその裏側にある、チームづくりの本質に迫りました。

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朝練後も練習後も必ず一人ひとりと挨拶

2024年1月から監督に就任されて一年半ほどが経ちました。振り返っていかがですか

予想通り大変でした。うちは特に選手個別の対応に時間をかけます。監督(前任:大後栄治氏)に指示を仰いでそこをコーチとしてサポートする立場でしたが、監督となり今では指示を出す立場になったので、責任もそうですし、ダイレクトに結果に反映されてしまうプレッシャーも感じています。去年の箱根の予選会は、人生で初めて寝られないくらい緊張しました。オリンピック時もこんなに緊張しなかったのに。
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箱根に導く監督というのは、それだけプレッシャーのかかる役割なのですね。それから1年、今年はいかがですか。

去年箱根を経験した選手が残っているので、より楽しみな1年であるし、既に選手の成長を感じているので、去年以上の成績は残したい、残さないといけないと感じています。
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昨年2025年の箱根は16位でしたが、今年の具体的な目標はありますか。

選手たちは「目標はシード!」と口々に言っていますが、そんなに甘くないと思っています。でも本当にシードを取りたいのなら今から狙っていかないと届かないと思うので、選手たちがその気なら僕もそのつもりで指導していきたいですね。学生の掲げる目標を僕はそのまま自分の目標にしているので。
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選手一人ひとりとしっかり向き合って指導されている印象があります。これは監督になったことで意識的に行っているのでしょうか。

これは前任の大後先生もそうでしたし、僕も元々実業団出身なので、個別対応は当たり前の環境だったんです。ただ、10数名しか所属していない実業団と、50名弱預かる大学チームとでは人数が違いますから、例えば面談一つをとってもかなり時間を要します。
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月1くらいのペースで面談は行っているのですか。

必要な時にするので回数は決めていません。学生にもよるのですが、面談もそうですし、朝練後も練習後も簡単なやり取りですが必ず一人ひとりと挨拶するようにして、場合によってはそのまましっかりした面談に発展することもあります。
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面談にしっかり時間を使うというのはやはり実業団での経験や考え方が基となっているのでしょうか。

それもありますし、僕自身カウンセリングなどの勉強をしていたので、対話路線の指導が主になりました。
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そういった知識の裏付けがあることで、選手たちも安心して相談できるのでしょうね。

とはいえできるだけ若いコーチに少しずつ任せるようにもしています。監督と選手の距離感は大事だと思っているので、あまり近すぎても良くないですし、厳しい部分も出さないと強くならないと思うので。
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レースは生モノなので、実践経験を積ませることを重視

前任の大後先生の時から指導方針を変えた部分はありますか。

僕自身勝負の厳しい世界である実業団から来たので、「ギリギリのところで“勝てる”チームにしよう」と伝えたのが1年目の初めのミーティングでした。『ギリギリの惜しいところまで行けたから良かった』じゃなくて、『ギリギリまで行ったのであれば勝って終われるチームにしよう』というスローガンの中でやって来たので、参加させるレースの数は多くしています。おそらく大後先生時代と比べると倍以上になるくらい。やっぱりレースは生モノなので、実践経験を積ませることを重視しています。
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レース数を多くこなすと身体への負担もかかってくると思いますが、ケアはどのようにされていますか。

だからこそ個人面談を通して選手の状態を常に把握していますし、その面談の材料としてAtletaを使わせてもらっています。いろいろな機能がある中でコンディションコメントが僕にとって本当に助かる機能でして。
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ありがとうございます!

これを書いてもらうことで選手の心理面を把握しやすいので、ここは必ず見るようにしています。どんなに良い選手でもAtletaのコメントを見て「あれっ?」と思う選手はやっぱりそこから崩れてくるんですよ。
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具体的にコメントのどのような部分から兆候が見られるのですか。

文面にネガティブ内容を書く選手もいますし、調子が悪くなると言葉数が一気に減ったり、逆に増えたりする選手もいますね。普段とは逆になることが多いです。
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コメントを振り返って活用することはありますか。

はい。過去のコメントから、
例えばある選手が練習の中で崩れたとして、それがどんな日だったのか見えてくるんです。
そうすると、暑さに弱い選手なのか、寒さに弱い選手なのか、前半ハイペースで入って粘る練習が弱いタイプか、後半尻上がりの練習には強いのか等、全部データとして残るんですよね。こういった蓄積データはすごく助かっています。
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個別面談を通してコミュニケーションを取りつつ、データを活用して戦略を立てている点が強さの秘訣かもしれませんね。

選手の特徴を知るうえでこういった選手の残したコメントは大事ですね。 何より選手のコメントを読むのは面白いですよ。良いレースした後の長い文章とかは特に。普段は物静かな子でも、レースで結果を出すとやっぱり書きたくなるんでしょうね。そういった選手の一面を見られるのは楽しいです。
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逆にレースで結果が残せない選手に対してはどうですか。

レースを走れなくて怒ることはしないようにしていて、いつも『反省なんかいらんから分析をしなさい』って言っています。次どうすべきか考えるというのは前任の大後先生も仰っていたので、そこは継承していますね。
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Atletaで気づけた選手の故障タイミング

高校から様々なレベルの選手が入って来ると思いますが、そんな選手たちを一様にトップレベルまで持って行くためにどのような指導をされているのでしょうか。

入部したらまずは自分の特徴を理解してもらうことにしています。
例えば、高校時代の5000mの記録を持って大学に進学するんですが、箱根駅伝は別に5000m速いからって走れるわけじゃなくて、スタミナがある選手もいれば、スピードで押し切る選手もいる。だから「どういった形で箱根を目指しますか?」って選手に聞いて、自分の特徴を活かす形でチームを分けて指導します。その中でも特徴的なのがロードチームで、このチームの子たちはトラックレースは殆ど出ないんです。
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ロードレースに割り切っているということですか。

そうです。だから、ここのグループの選手は競技場を走りませんしスパイクも履きません。
Atletaで選手の故障タイミングを振り返る中で気づいたのですが、スパイクからロード用の厚底シューズに履き替えて3週間から1ヶ月ぐらい経つと不調か故障、それからまたスパイクに戻ったときに3週間から1ヶ月あたりで不調なり故障を出す選手が何人かいることが分かったんです。
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Atletaの記録から傾向が見えたのですね。

不調だった本人に「ここで何やりたい?」って確認したら、「箱根です。だからスパイク履きたくないです」と言うので、じゃあもうロード一本で行くか…となり、できたのがロード専門チームです。去年一年間殆どスパイクを履かずに箱根を走った選手は2人います。そんなロードチームの選手の中には10000mのタイムが31分くらいの選手もいます。28分台後半でも遅いと言われているのに。でもロードを走らせたらチームの主力です。
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陸上は靴によって負担や故障箇所が変わるそうですね。

そうです。それこそ、さっきとは逆の子もいて、厚底ばかり履いていると不調になる子もいます。そういった選手には箱根を目指している最中でも薄い靴で練習させて負担を軽減させます。
今のシーズンはスパイクでの練習が中心になりますが、アキレス腱の故障が増える選手には厚底シューズを履かせるなど調整しています。
ある程度靴のコントロールによってケガを抑止できることが、Atletaの情報からも少しずつ見えてきました。40人ほど選手がいますけど、おかげさまで故障者は少ないです。
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少しずつ見えた成長を更に加速へ

箱根駅伝に向けてこれからどのような準備をしていきますか。

今はどの大学が予選落ちしてもおかしくない、非常にハイレベルな大会です。我々も3年前に予選落ちを経験しているため、徹底した準備が何より重要だと考えています。去年箱根出場がかかった集団走で、フリー走の2人が途中で走れなくなってしまい、なんとか10番手前後の選手たちが死に物狂いで走りチームを救ってくれたので、何とか出場権を獲得できました。
その経験を踏まえ、今年は体調や疲労の把握は徹底していく必要があると感じています。
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最後に今年の箱根駅伝出場に向けた意気込みや選手へのメッセージをお願いします。

幸いにも箱根経験者が10人残っている反面、そこに甘さが出たら今のチームを“箱根で終える”ことはできないと思っています。
タイム的には自己ベストをたくさん出してはいるのですが、正直なところ、チームの雰囲気にやや物足りなさを感じていました。でも、ここのところ学生中心になってミーティングを繰り返してくれていて、少しずつ学生主体で動いてきたかなとチームの成長を感じています。
特にキャプテンには、この動きをもっと加速させるよう伝えていて、彼のコメントはチームの雰囲気も反映されていて、チームの強化に活かせる部分も多くあってとても助かっています。
だからこそ、1月3日を必ずこのチームとともに大手町で終われるように頑張ります。
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神奈川大学 男子陸上競技部(かながわだいがく)
中野 剛 監督(なかの つよし)

<チームの情報>2025年6月現在
選手数:41名
指導者数:13名
Atleta導入時期:2017年10月

<チームの主な成績>
箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)
第100回大会(2024年1月):総合21位
第101回大会(2025年1月):総合16位

第56回全日本大学駅伝対校選手権大会:総合14位