2022.08.04

「美しくしなやかに」「栄光に近道なし」の理念を掲げる聖和サッカーの哲学とは

【活用事例】#37 サッカー 聖和学園高等学校 曽山加奈子氏・佐々木好人氏

目次

全日本高校女選手サッカー選手権に第1回大会から連続出場を続け、これまでなでしこジャパンへ選出された卒業生や年代別の日本代表選手を30名以上育成してきた、女子サッカー界の名門・聖和学園高等学校にインタビューしてまいりました。トレーニング中のピッチ横でのインタビューとなりましたが、ピッチからは「強豪校のトレーニング」とは一線を画した雰囲気が伝わってきます。
それを脇目にインタビューに答えてくださる佐々木先生、曽山監督の口から出てくる言葉の節々から、最高のパフォーマンスを目指すだけではない、チーム作りの哲学、選手の人生と全身で向き合う姿が垣間見えました。金言に溢れたインタビューを是非ご覧ください。

チーム理念「美しくしなやかに」「栄光に近道なし」をもとに、価値観を共有できている

今日はありがとうございます。まずはチームについて教えてください

創部から38年、技術の追求をベースに、見ている人がワクワクするようなサッカーを志向してきています。お陰様で選手権大会には連続出場できていますが、それだけではなく、「美しくしなやかに」「栄光に近道なし」といった創部をされた国井精一先生の理念やプライドを大切に、活動を続けています。
avatar

30回連続出場、これは凄いことですね。

全国から「面白いサッカーしたい」「うまいって言われたい」「自分のプレーで人を感動させたい」といった志を共有できる選手たちが、自ら門を叩いて集まったチームです。見ている人が「いつゴールを仕留めるのだろう」とワクワクするようなパスサッカーを志向し、様々な方々のご支援もあって結果も伴ってきていることにプライドを持っています。また、同じ県内に切磋琢磨し合えるライバル校(常盤木学園高校)がいることも非常に大きく、互いにリスペクトし合う関係性を築けています。
avatar

練習の雰囲気も独特な感じがします。

「ひねりをきかせる聖和のサッカー」を叶える目的で導入したダンスを、ウォーミングアップで行っています。リフティングもただやるのではなく、同時にテニスボールを手で扱ったり、時にはテニスボールでリフティングをしたり、と技術の感覚を身につけるための工夫を凝らしています。
avatar

冒頭、チームの理念についてもお話がありましたが、「競技としての目標」以外の目標もお持ちなのでしょうか?

勝利を目指すことは競技者である以上もちろんですが目標は全国大会優勝だけではありません。選手たちが社会人になったときに、「高校時代日本一になりました」だけではない何かを身につけてもらいたいといつも話をしています。競技である以上、勝ち続けることは出来ませんよね。それは彼女たちが卒業後に身を置くことになる競争社会も同じだと考えています。高校時代のサッカーを通じて、競争社会を上手に生き抜く力みたいなものを身につけてほしいです。
avatar

その部分は選手たちにどのようにお話されていますか?

「自己決定力」の話をよくします。選手たちは越境で来ている選手も多く、その選手たちは皆「聖和のサッカー」を目指してきてくれています。選手たちには、必ず入学前に練習に参加してもらい、面談をし、自分で意思を固めてきてもらっている。そのプロセスを経ることで在学中ちょっとやそっとのことでは折れない心を育めると思っていて、これはゲーム中に「誰かがやってくれる」ではなく「自分がやる」という積極的な判断を生む土台にもなっています。
avatar

越境の方が多いんですね?

多いです。中学まではクラブチームで、親御さんに送迎されていた環境から、寮生活でチームメイトと24時間一緒、親御さんと会うのは年に数日といった環境への大きな変化を通じて、サッカーだけじゃない力も身についていると思います。北は北海道、南は沖縄、全国から同じ価値観を共有できる選手たちが集まっています。
avatar

選手を送り出す保護者の方もそれなりの覚悟が必要ですね、保護者の皆さんとはどのような関係性ですか?

保護者も含めて聖和ファミリーである、と常々考えています。親元を離れ、自分のやりたいことにチャレンジできる環境は、親御さんのご協力なしには成り立ちません。(選手・スタッフ・保護者に+ファンも加えた)三位一体と+αでチーム作りをしています。遠方の方々にもなるべく情報を伝えていきたいと思ってFacebookやInstagramも更新していて皆さん見てくださっているようです。
avatar
たまにAtletaのコメントを保護者に公開して様子を伝えることもありますよ。普段目にしない娘の新しい一面が知れる、と保護者にも好評です。他には年に数回程度、保護者と生徒、スタッフのZOOMの懇談会等の交流を図っています。あとは遠路はるばるトレーニングや試合を見に来て、こっそり帰る親御さんもいらっしゃいます。笑
avatar

コメント機能を活用していただいている様子が随所に垣間見えますが、どのように捉えていますか?

毎日懸命にトレーニングに励んでいると、昨日がどうだった、今日がどうだ、という近視眼的な考え方にどうしても陥りがちです。Atletaに日々の記録が残っていることで、過去調子のよい時は何を考えていたのか、落ち込んだ時にどうやって立ち直ったのか、というように自分を客観視することができます。競技スポーツなのでうまくいかないことが沢山ありますが、躓いた時に指導者頼みではなく、自分の足で起き上がるキッカケを与えてくれていると思っています。
avatar
やっぱり自分の子供が頑張っている記録が残ることは保護者の方からしてもとても良いですね。成長のプロセスを垣間見ることができるので、保護者の方への情報としても色々な使い方ができる可能性があると思っています。
avatar

最近Atletaも保護者アカウントの開発に力を入れておりますので、また色々とご意見ください!

サッカーだけではないパーソナルな部分を互いに知るのにも役立つアプリ

Atletaを普段どのように活用されているのか教えてください。

使い始めの頃、コロナで選手全員実家に帰ることになった時期に、みんなとの毎日のコミュニケーションに活用できました。そこからチームの情報共有ツールとして定着しています。
avatar
指導者に直接は言いづらいけど、記録して残しておけば言ったことになるよね、というバランスが絶妙です。私としては、「自分自身を客観視する」ためにピッタリなツールだと思っています。
avatar
「俯瞰して自分を見る能力」とでも言いましょうか。「アレをしながらコレもする」という、今でいう「マルチタスク」について、先代の国井先生は早くから気づかれていてチームとして、サッカーの感性や判断力を磨く上でも土台となることなので一貫して言ってきました。それをAtletaに日々の記録として残しておくと、小さな改善ができる、同じ失敗を繰り返さずに済む、といった効果が生まれていて、みんなあらゆることを同時並行でこなす力がどんどん身についている気がしますね。女性の方がこの力は元々持っているんですよね。
avatar

お二人はAtletaをよくみられているんですか?

もうクセになってますね、何かない限り毎日その日の選手のコメント読む、という感じです。
avatar
私もそうですね。これを読むと、選手の深層部分に迫れる感覚があります。日々の習慣としてはその日のデータをみますが、例えば選手に異変があった、何か問題が発生した、という時に見逃していたSOSのサインはなかったのか、ということを遡って確認することもあります。
あとは、曽山先生のレスポンスが早く、年頃の女子選手たちの強い承認欲求が満たされていますね。
avatar
特に試合に出ていない選手などは遠慮して直接言ってこないようなことを、コメントに書いておいてくれたりしていて、グラウンドとは違った気づきがあります。
avatar
監督は試合前に「身体の気になる部位」の度合もよく見ていますね。
avatar
このデータだけでメンバー選考などを判断することは絶対にありませんが、Atletaのデータを見て、気になるデータがある場合は直接状況を確認します。
avatar

選手たちもみんな包み隠さずに書くんですね。

常々、「自由に表現できる場」であることを強調しています。練習がない日の様子を書き込む選手もいたりして、ピッチ外の選手の様子も知れますね。私たちも選手のことを少しでも理解しようとする姿勢を大切にしていて、それにみんな応えてくれています。
avatar
私自身は最近、「ソーシャルボンド」の考え方に着目しています。特にサッカーだけじゃない学校と生徒の間の結びつき(=ボンド)を構築するためにも、選手一人ひとりについて、サッカーだけではないパーソナルな部分を互いに知るのにも一役買っていて、例えば卒業後の進路相談だったり、選手が色んな自己表現をしてきますね。
avatar

続けてきてどんな変化が見られますか?

当初、「今日はこういうこと書いてね」というテーマを指定して書いてもらうこともしていました。ただ、定着してくると選手個々のフォーマットみたいなものが決まってきて、それも面白いですね。それから書く内容が1人称→2人称→3人称と変化していきます。
最初は「生理予定日を把握して体調管理に活かそう」「食事の栄養バランスを把握して足りないものを補おう」という個人のことから始まりますが、ある程度自分自身のことがわかってくると、自然に他人に目が向く、というポジティブな変化を感じています。
あとは、教員にとってのモチベーションになる、というのも大事な点です。私たちは、「こちらから指導する」という感覚よりは、同じ景色を見たいという想いを共有して「一緒にチーム作りをする」という感覚で選手たちに接しています。選手のコメントからそれが伝わっていることが感じられると、非常にモチベーションになりますね。
avatar

女子サッカー界の名門・聖和学園高等学校を強くする新たな取り組み

トレーニングと授業以外の時間はどのように過ごされていますか?

選手と1対1で話す機会を意識的に作ったりして他愛もない会話や時事ネタに対する意見を振ってみるなどいろんな話をするようにしています。
avatar
最近の選手たちは感受性豊かで、情報の取捨選択にもセンスを感じます。TEDを見せるなど、こちらから触れてほしい情報を提示することもありますが、やはりそこは、Z世代の選手たち。話題の本の内容を要約したYoutubeの動画を何度も見てコンセプトをつかみ、学んだことを普段の生活にすぐに活かすというようなセンスがあります。大人の私から見てもそんな言葉よく知ってるな、と感心させられることもあります。「オンラインの要約だけ見て本を読んだ気になるのは…」と眉を顰める意見があることも承知していますが、私はそれでも、本を買って満足するよりは、情報収集という意味でよほど良いと思っています。
avatar

まだまだお聞きできていないエピソードが沢山ありそうですね、また聞かせてください。本日は貴重なお話ありがとうございました。

聖和学園女子サッカー部 公式HP

Facebook

【公式】Instagram

【公式】Twitter
blank image

聖和学園高等学校(せいわがくえん)女子サッカー部
曽山 加奈子 監督(聖和学園→秋田大学→日テレベレーザ 2013年なでしこジャパン選出)
佐々木 好人 顧問・コーチ(マネージメントを担当)

<チームの情報>2022年7月現在

部員数:部員57名
指導者数:4名(総監督、監督 コーチ2名)

Atleta導入時期:2019年8月

<チームの主な成績>
・全国大会優勝 4回(高校選手権3回)
・全日本女子サッカー選手権大会出場13回
・全日本女子選抜サッカー選手権大会 準優勝1回、3位1回
・全日本高等学校女子サッカー選手権大会 26年連続出場 優勝3回、準優勝2回、3位7回