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2022.10.26

5度目のインターハイ優勝を果たした和歌山信愛ソフトテニス部。前任監督から引き継ぐ密な会話で構築された強い信頼関係とは。

【活用事例】#43 ソフトテニス 和歌山信愛高等学校 中山 陽司氏、近森 舞氏

目次

今回インタビューをさせていただいたのは、つい数ヶ月前に行われたインターハイで見事優勝を果たした和歌山信愛高等学校 女子ソフトテニス部の中山陽司監督と近森舞フィジカルトレーナーです。
「実力あるチームではなかった」と謙遜しながらも、そんなチームをいかにして優勝に導いたのか。そこには前任監督から引き継がれたチーム内での密なコミュニケーションと、その結果構築された強い信頼関係がありました。チームづくりにお悩みの指導者、そして高みを目指す全ての競技指導者の方、必読です!

優勝できたのはチームに関わる皆さんが助けていただいたおかげです

チームの構成を教えてください。

選手は今33名います。顧問が私と林(前監督)の2人体制でやらせてもらっていて、そこにメンタルトレーナーの中山亜未さんと、このインタビューに同席させてもらっているフィジカルトレーナーと近森さんの4人体制で基本的に指導しています。
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HPを拝見しましたが、フィジカルとメンタルのサポート充実のために「げんき開発研究所」というところと契約されていると記載がありました。「げんき開発研究所」とは具体的にどういった機関になるのでしょうか。

和歌山県立医科大学の取り組みで、県内の競技の強化事業の一環として関わってもらっています。
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冬になると練習場所を提供していただいたり、定期の体力測定を実施していただいたりと県から様々なサポートを頂いております。
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げんき開発研究所とは・・
https://www.wakayama-med.ac.jp/med/miraic/genki/

メンタルトレーナーの中山トレーナーはその県の強化事業の中で関わってもらっています。
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食事や栄養面についてもサポートがあると伺いました。

はい。栄養に関しても和歌山県の強化事業として栄養サポートというものがあるので、年間2回ほど栄養講習をしてもらっています。強化事業での講習なのでスポーツに関連づいた細かい説明をしてもらっています。
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チームとしては昨年のインターハイ終了から中山監督が監督としてチームをご指導されているんですよね。監督になってからいきなり結果を出されたということで、本当に凄いです。おめでとうございます!

はい。去年の夏が終わった1, 2年生の新チームから引き継ぎをさせてもらって、秋の国体が終わってからは完全に自分の新体制として指導しています。

いやいや、優勝できたのはチームに関わる皆さんが助けていただいたおかげですよ。
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選手たちには普段の練習から勝敗を意識させました

前監督であり今も顧問をされている林先生は28年間も和歌山信愛高校を指導されているとのことですが、長きに渡って監督をされていた林先生からのバトンタッチは、中山監督にとってプレッシャー感じることはありませんでしたか。

そりゃあもう、プレッシャーしかなかったですね。でも今でも毎日顔を出していただいていますし、裏方のサポートを始め、様々な形でチームに携わってもらっています。監督という肩書は自分になっていますけど、ほぼ二人体制なのでとても心強いです。
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そういったサポートもありながらのインターハイ優勝されたわけですが、選手たちのモチベーションは大会前から高かった印象ですか。

毎年日本一を目指しているのは根底にありますが、特に春の全国選抜で準優勝だったんです。もう一歩のところで日本一には及ばすというところで、その悔しさは選手全員が感じていたので、その悔しさを夏にぶつけるためにみんながしっかりやってこられたのかなと感じます。
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そのインターハイに向けて新しい取り組みや、体制が変わったことで中山監督から変えた部分などはありましたか。

基本的には『チームとしてどうありたいか』という部分はあまり変わっていません。自分も林先生と長いこと一緒にやらせてもらっていた中で、林先生の考え方が理想なので。強いて言うなら、選手たちには普段の練習から勝敗を意識させました。ちょっとした練習でも勝ち負けを意識してガッツポーズしたり、悔しい気持ちを強く持ったり。実際の試合で出す『勝利へのこだわり』を日頃から持ってもらうようにしました。
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「疲れているけど意欲は高くて練習強度を上げている選手がいるなぁ」とか、そういったことがリアルタイムで見えるようになったのでとても便利

『Atleta』を5年ほどご利用いただいていますが、導入を決めていただいいたのは林先生でしたよね。

そうですね、始めたきっかけは林先生です。実際に『Atleta』を活用しているのは近森トレーナーになります。選手には痛めた部位などを明確に入力させているので、その内容を確認してもらいながらサポートしてもらっています。我々顧問側ももちろんケガの情報は確認しますが、主に体調とか精神面、肉体面の疲労度といった部分を注視しています。
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顧問とトレーナーで確認する項目を分担されているのですね。

先ほど中山監督がお話された項目の他にも睡眠時間は気にしています。
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『Atleta』導入前後で選手たちのコンディションを見る観点は変わりましたか。

『Atleta』導入前は紙でやっていたのですが、導入してからは選手に入れてもらう項目数が増えましたね。それこそ睡眠の時間や質、あとは練習意欲も見るようになりました。そうすることで、痛みと意欲がどう繋がっているか、例えば、「疲れているけど意欲は高くて練習強度を上げている選手がいるなぁ」とか、そういったことがリアルタイムで見えるようになったのでとても便利に活用させてもらっています。
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複数項目の関連性を『Atleta』からチェックされているのですね。紙の運用からアプリに変わったことで良かったとや逆に不便になったと感じたことはありますか。

良かったことしかないですよ。選手の状態をリアルタイムで見られるってのがすごく助かっています。あとは振り返りしやすくなりました。積み重ねてきたものが記録として残るのが良いですね。
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嬉しいご感想をありがとうございます。中山監督はどういった観点で『Atleta』の記録をご覧になっていますか。

選手個々というよりもチーム全体の推移を見ています。時期的に追い込みをかけている時期などは、ある程度選手たちの疲れ具合を参考にしながら練習強度を考えたり、逆に大会前には強度を下げたり。この辺は本人たちからこっちに直接は言いづらいことでしょうけど、長期的に記録を続けて、入力し慣れてくるとさらけ出せる部分だと思うので、そういった目安を確認するためのツールとして『Atleta』は非常にありがたいです。
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「長期的に記録を続けて…」というお言葉もありましたが、和歌山信愛高校はかなり入力率が高いので、習慣化がしっかりできている印象があります

え?ウチって高いんですか?実はこの前も選手たちに『Atleta』の入力について話をしたばかりなんですよ。どうしても中には毎日入力できていない選手とかもいるので。だからてっきり入力率は他のチームよりも低いのかと感じていました。
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中山監督から『Atleta』の入力について選手たちへ指導することはよくされているのですか。

毎月出していただいているレポートを確認して、入力率が低い選手がいたらその都度チーム全体に向けて話すようにしています。そこで『入力しなきゃ』って選手の意識が変わってくれたら良いんですけどね。
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コンディションやコメントについては、選手が記入する上でのルールなどは設けていますか。

特にルールは設けていないです。5年間続けられているのもあって、先輩から代々『Atleta』を入力する習慣が伝わっているなと感じています。新入生の勧誘の時から「うちは『Atleta』を使っています」という紹介をしており、チームに入ってくる時点でこういった取り組みをしていることが前提になっているので、チーム全体で浸透できているのかなと思います。
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選手たちにはセルフコンディショニングをできるようになってほしい

『Atleta』を導入してから選手たちの意識が変わったなと感じる点はありますか。

大会前に自分がどんな疲労度だとか、何を食べていたとか、何時間寝ていたとか、そういったことは意識できてきたかなと思います。『Atleta』とは別にクラブノートもつけさせていて、そちらには日頃の練習メニューやその日の指導内容、自身の課題などを書いてもらっているのですが、その中にコンディションに関連したものが増えてきました。「前回大会はこんなコンディションだった、だから次はこんな準備をしないといけない」みたいなこと内容をよく見ますよ。
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クラブノートの内容が変わってきたということですね。近森トレーナーが感じた変化はありますか。

『Atleta』を使う中で選手たちにはセルフコンディショニングをできるようになってほしいと思っています。そういった部分でいうと、1年生でできなかったけど3年生になって習慣化できたことで、「やらないと気が済まない」って子が出てきたりもしているので、非常に良い傾向だと思っています。今後もセルフコンディショニングが選手たちの中に定着してくれると嬉しいです。
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年々セルフコンディショニングが習慣として根付いていくものなのですね。

1年生の頃は自分のことよりも日常生活をこなすことで一杯一杯で、なかなか自分の管理に意識を回せないって子がほとんどなんです。それが経験を積み重ねてくると3年生になった頃には自分自身の調整がしっかりできてくるんですよね。
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具体的にどういったシーンでセルフコンディショニングできているなと感じますか。

例えば痛みに関してだと、今までだったら痛くなってから報告していた選手が、痛くなりそうな段階で自分の判断でアイシングしたりストレッチしたりケアしたり、そういったコントロールができているのを見ると「この選手は成長したなぁ」と感じて嬉しくなります。
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前任の林先生の時から選手との関係性は非常に理想的だった

中山監督が選手育成に関して意識していることや特別取り組んでいることなどがあれば教えてください。

『応援されるチームになる』というのが目標の一つにありまして、応援されるためにどういった人間にならないといけないかについては選手に意識させるようにしています。あとは選手と指導者の関係性といったところも変えていきたいと考えています。どうしても昔の部活動だと、『選手は指導者に絶対服従』という考え方があったかと思うんです。僕が高校時代もそうでしたしね。
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実際に、昨今そういった部分が原因で問題になっている部活チームもありますもんね。

そういった関係は無くして、選手から我々指導者に言って来やすい、やり取りしやすい関係性のチームにしたいと思っています。それは林先生が監督の時からできていて、その時から選手との関係性は非常に理想的なものになっているので、参考にさせてもらいながら指導しています。
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指導者として選手とのコミュニケーションを取る中で気をつけていることはありますか。

選手との距離感は気にしています。とにかく『まめに話す』こと。なんてない会話でも良いので、日頃から選手たちを見る中で気になった様子があれば声をかけることです。その点は林先生も非常に細かくされていたので、そこに尽きると思います。とは言っても自分はまだ林先生ほど細かくやりきれていないのですけど、それでも意識しています。
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常に指導者と選手との関係性について意識されているのですね。

あと、選手たちに求めたのは『選手同士のお互いのコミュニケーションをしっかり取ってほしい』ということですね。それが仮に衝突になってしまっても良いと思いますし、褒め合うであったり、他愛もない会話であったりでも良い。とにかく繋がりを密にしていかないと、それぞれを理解できませんから。
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全国の中学で好成績を残して来た選手たちが集まることで、どうしても選手それぞれのプライドがぶつかり合ってしまうこともあるのかなと考えてしまうのですが、そこも密なコミュニケーションを経てチーム内の関係性を強くしていくといったイメージでしょうか。

各地方で活躍した子たちが集まってくるので、そういったことはあると思います。でも、「昔の成績に囚われていてもその先の成長は無いよ」って話は選手にするんです。「高校に進んだら、そこで結果を出した選手が強いんだよ」って。チームとして日本一を目指す中で、誰かの悪口言ったり、「なんで実力ないのにあの子は試合に出られるんだ」と考えてしまったり、そんなチームの成長の足を引っ張るような選手にはなってほしくありません。もし他の選手が試合に出ることで悔しい思いをしているなら、その子を上回る努力をすれば良いだけの話ですし、それが成長に繋がりますからね。チーム全体としてそういった意識を持って頑張って欲しいと思っています。
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OGとの交流は選手たちにとって良い刺激

チームを卒業したOGとの繋がりは今もありますか。

そうですね。ソフトテニスは大学生や一般の方も含めた大会もあったりして、そこにうちの選手が出場することもあるので、そういった機会で再会することがあります。また、毎年年始めに初打ちをするんですけど、その時には多い時で卒業生が50〜60人は帰って来てくれますね。
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そんなたくさんいらしたらコートが大変なことになりますね(笑)

そうなんですよ。でもほんとありがたいです。現役選手の代と全く関わってない子とかも帰ってきて彼女たちと相手してくれたり、他愛もない話をしてくれたりするので。
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OGの中には実業団や社会人として活躍されている選手も多いと思いますが、そういった方がチームに顔を出してくれると、後輩のモチベーションも上がりますよね。

そうですね。テニスメーカーに勤めている卒業生なんかも後輩たちを指導してくれるので、そんな機会があると選手たちにとっても刺激になって、収穫があると思います。顧問から言われるよりも感じ方が全く違うでしょうし。こういった機会は多ければ多いほど選手たちにとって良いことだと思います。
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「ここまで来たんやからあとは楽しもう。」優勝候補のチームだったらそんなことは言ってないと思う

今後のチームの目指す姿や目標を教えてください。

今回インターハイで優勝できましたけど、実力があったわけではなくて、実力がないからこそ逆に開き直ってチャレンジ精神全開で喰らいついて行った結果だと思っています。その気持を忘れずに、伝統あるチームだという誇りも持ちつつも、「今までのすごい成績はあくまで先輩たちが凄かっただけで、自分たちはまた違うんだ」というひたむきさを選手たちが持つことが大事。その気持ちを忘れずに、チャレンジして向かっていける選手にしていかないといけないと思います。
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インターハイの決勝戦の時って、中山監督は何と言葉をかけて選手たちを送り出したのでしょうか。

「ここまで来たんやからあとは楽しもう。決勝の舞台で変に優勝を意識してビビってしまって、いつもの力を出せないとか恥ずかしいやん。だからみんなただ暴れて来い」みたいな冗談めいたことだけ言って送り出しました。逆に実力ある優勝候補のチームだったらそんなことは言ってないと思うんですけどね。
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今のお言葉もそうですが、今回のインタビューを通して、インターハイ優勝チームなのにお二人ともすごく謙虚で柔らかい雰囲気だったので、私が想像していた指導者像と全然違ってとても驚きました。この雰囲気はソフトテニスという競技特性から来るものなのでしょうか。

どうですかね(笑)まぁ種目によって雰囲気が変わるというのはあると思います。うちの学内でも各競技の部活で雰囲気は違いますし。とはいえ、各府県の強豪校と呼ばれているチームも監督さんの世代交代が徐々に始まっているので、ここ数年くらいで高校のソフトテニス界が全体的に変わってきているかなとは感じますね。
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和歌山信愛高校さんの中でもそういった雰囲気の変化というのはここ数年であったのでしょうか。

ここ数年で全国的にも部活動のあり方が変わってきたタイミングがここ数年あったかと思いますが、うちの学校もそのタイミングから徐々に部活動の雰囲気は変わってきましたね。時代の流れに自然に合ってきたと思います。それでも自分が指導する中で選手に説教することもありまが、そこで選手たちが私に気を使って話しにくくなったり、離れたりしてほしくはないので、しっかり日常のコミュニケーションに重きを置いて関係性を築いています。
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和歌山信愛高等学校 (わかやましんあいこうとうがっこう) 女子ソフトテニス部
中山 陽司(なかやまようじ)監督、近森 舞(ちかもりまい)トレーナー

<チームの情報>2022年10月現在
部員数:23名
指導者数:4名(総監督、監督、トレーナー2名)
Atleta導入時期:2017年11月

<主な成績>
・インターハイ2022
団体戦優勝(7年ぶり5度目)、個人戦第5位
・ゴーセン杯争奪ハイスクールジャパンカップソフトテニス2022 シングルス優勝、ダブルス第3位
・全日本高等学校選抜ソフトテニス大会 2022 準優勝