2025.06.25

高校で育てるのは、速さだけじゃない。自律を育む女子駅伝部監督の挑戦

【活用事例】#54 陸上競技 北九州市立高等学校 大田 賢治氏

目次

「選手の自律・チームの自立」を掲げ、近年全国大会でも存在感を示す名門・北九州市立高等学校陸上競技部。チームを率いる大田監督は「教えすぎない」「あえて待つ」指導を徹底し、選手自身が考え、行動する文化を育ててきました。

今回はその独自の育成哲学に加え、選手の“自己理解”を深めるツールとして活用している『Atleta』について詳しくお話を伺いました。
選手と真に向き合いたい全ての指導者・選手に届けたい一編です。

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選手には全てを教えず『自律』させる

チーム理念として『選手の自律・チームの自立』といったキーワードを強く発信されている印象にあるのですが、このあたりの考え方についてお聞かせください。

私は『選手が主体である』ことが最重要だと思っています。指導者が統率して指示を出し、それにただ従って練習させるスタイルは、競技力をつける意味では手っ取り早い方法かもしれませんが、私は選手にこれからのことまで考えて欲しいと思っています。
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同じような考え方をお持ちの指導者は他にもいらっしゃる一方、多感な高校生を指導する中で、そう簡単にはいかず悩まれている方も多いと思います。

彼女たちは高校で全てが終わりではなく、むしろその先こそが大事です。陸上を続けるにしても、そうでないにしても、社会に出てからは、自分で考え、自分の力で道を切り拓いていく必要があります。この自分の力がすごく重要で、高校はその力を身につける最終段階だと考えています。だから私は、高校生にただ指示を出して従わせるのではなく、自ら考え行動できるような指導を意識しています。
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大田監督がこの理念のもと結果を出せているのには、何か特別な指導法や意識的なものがあるのでしょうか。

『できるだけ全てを教えない』を意識しています。すると選手たちも、本当に気になることがあって、「知りたい!頑張りたい!」って気持ちがあると、自分から質問したり、調べた内容を確認しに来たり、そういった行動ができるようになってきます。『あえて待つ指導』ですね。
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大田監督が『自律』を理念とした指導方針になったきっかけはありましたか。

私は元々中学校で指導をしていました。中学生は高校生に比べると『自律』させることは難しい部分もあって、それでもできるだけ考えることの大切さを私なりに指導していました。ただ、中学校で少しでも自分で考える幅を広げられるようになった生徒が、高校になると管理が強くなってしまい、逆に「考え方はコレだ」と固定されてしまう状況がたくさん見られたんです。そういった子たちはやはり高校を出た後も考える力が備わっておらず、結果的にすごく苦しんでいるように感じられました。
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高校で型にはめられてしまう生徒が多かったのですね。

そのような光景をたくさん見てきた結果が、今の考え方に至る一つの要因になったと思います。高校教育において大切なのは、生徒たちの「今」だけでなく、「未来」をより良く生きる力を育むことだと考えます。
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指導者の考えが正解ではない しっかりお互いの意見をすり合わせる

普段の練習ではどのような指導をされていますか。

練習メニューについても、私はあくまで「こんなふうに今週行ったらどうか」といった提案にとどめて、それに対して考えを持つ選手は必ず言ってきますね。自分の意見を言えるというのは、自分の現状を理解できているということになりますから、選手のそういった行動を大事にしています。
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練習メニューについて意見を言えるというのは、監督と選手間の信頼関係があってこそできるのかなと思うのですが、普段から選手とどのようなコミュニケーションを意識されていますか。

私自身の考えが正解だとは思っていませんから、練習メニューの話にしてもしっかりお互いの意見のすり合わせは意識的にしていますね。ちなみにうちは自主練習の日を週1〜2回は取るようにしていまして…
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週2回というのは多いですね。

前後の練習の状態や日程に合わせて、今自分に必要な練習が何かというのをここでも選手自身で考えてメニューを提示させています。ただ、自主練習日を設けた当初、選手によっては毎回同じ練習しかしない子が出てきていました。そこで昨年から『なぜこのメニューなのか』を選手たちには明確にさせるようにしました。初めのうちはその理由を答えられない子もいて、時間は掛かりましたが、そういった地道なやり取りを続けたことで、選手自身も『今の自分の課題はこれだから、このメニューをやらなければ』というのが明確に見えてきたようで、今では目的を持った練習メニューをみんなしっかり立てられるようになりました。
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時代の変化に合わせて指導者もやり方を変える必要がある Atletaはその一役

前監督がAtletaをチームに導入されて、大田監督はそれを引き継ぐ形となりましたが、引き継ぎはスムーズにできましたか。

引き継ぎ自体は問題ありませんでしたが、おそらく前任とはAtletaの活用理由が変わったと思います。以前はあくまで「チーム管理」のツールとして使われていたと思います。
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大田監督は、どんなツールだと捉えていますか?

選手自身が自律していくための『自己理解を深める』ツールだと思っています。
私の中では、Atletaはチーム管理のためのものではないんです。
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選手たちに、具体的な使い方の指導などはされていますか。

そこも特別私からは何も言ってなくて。例えば、「コンディションコメントには自分の状態や考え、それを踏まえて今後どうしていくべきかを書いたほうがいいよ」くらいは伝えますけど、それ以上は指導しませんし、チームの中には毎回登録できる子もいれば登録が途切れる子もいて、それ自体についても私からは何も言いませんが、でもちゃんと見てはいます。
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登録を強制させているわけでもないのですね。

力をつけて結果を出す選手は自分の状態がどうであれ、やるべきことはできていて、自分と向き合う時間を作れるんですよ。
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自己管理をアプリで行う点についてどのような印象をお持ちですか。

うちの場合、練習場所まで移動が発生することが多くて、移動に時間掛かるので帰宅してから寝るまでにかなり時間を取られてしまっています。例えばこの状況の中、ノートで振り返りなさいとなると時間的にかなり厳しくて、それがAtletaだと、練習帰りのバスの中で振り返りを登録できるじゃないですか。しかも練習直後に、記憶が鮮明なうちに振り返りができる点も含めてとても良いと感じています。
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現在はインターハイの予選時期で、選手たちもそれぞれ目標設定して頑張っていると思いますが、チームの雰囲気はいかがですか。

すごく良いです。この時期、出場できる選手はどうしても限られて、チームの半数以上は出場できないことが確定している中、そんな選手も目標を更新しながら次に向けて頑張れているので、この状況もAtletaのおかげだと考えています。
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目標に向けて選手全員の意識が前を向けているという点もチームの強さだと感じます。

昔は指導する上で『心を鍛える』みたいな言い方がされていたと思います。選手の心を指導者が壊して、そこから這い上がらせることでメンタルを鍛えるみたいな。ですが、今の子にそのやり方は難しくて、それよりも私は『心を整える』ことの方が大事だと思っているんです。心が崩れそうになったらしっかり整えて、頑張れる状態に指導者が導いていく。
これが今の時代に必要な指導だと考えています。
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昔とは環境や選手たちのバックグラウンドも違っていますからね。

時代とともに目の前にいる選手たちが変わる中で、指導者もやり方を変えていかなければなりません。Atletaはその役割の一つを担ってくれていると思います。
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ありがとうございます。最後に大田監督自身の目標を教えて下さい。

私の目標は彼女たちの目標と同じです。だから、彼女たちをその目標に近づけてあげるためのサポート方法を日々考えていきたいと思いますし、昨年は本当に悔しい思いをたくさんした1年間だったので、昨年の3年生に向けても、苦しんだ1年間はこれからの飛躍のため大事な1年だったんだと表明できるくらいの結果を出せるよう、今の選手たちと一緒にたくさん考え、苦しみ、失敗しながら、前に進む力を高められるチームにしていきたいです。
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北九州市立高等学校 陸上競技部(きたきゅうしゅうしりつこうとうがっこう)
大田 賢治 監督

北九州市立高等学校 陸上競技部(きたきゅうしゅうしりつこうとうがっこう)
大田 賢治 監督

<チームの情報>2025年6月現在
選手数:16名
指導者数:4名(監督、副顧問、外部コーチ2名)
Atleta導入時期:2022年4月

<チームの主な成績>
2024年度:
全国高校女子駅伝(第36回)11位
TOKYO Spring Challenge 2023(日本グランプリシリーズ グレード2) 出場

2023年度:
全国高校女子駅伝(第35回)11位
インターハイ(全国高等学校陸上競技対校選手権大会)3000m 8位入賞、1500m 決勝進出