Atleta通信 | 「提出物」から「財産」へ。自主性を引き出す次世代のチーム運営とは

キーワード:

2025.07.17

「提出物」から「財産」へ。自主性を引き出す次世代のチーム運営とは

【活用事例】#57 陸上競技 洛南高等学校 奥村 隆太郎氏

目次

高校駅伝の舞台で長年存在感を放ち続ける、洛南高校陸上競技部
その名門を率いる奥村監督は、「変えてはいけない理念」と「進化させる方法論」の両立を徹底しながら、選手と真摯に向き合い続けています。

『Atleta』での記録を「提出物」ではなく「自分の財産」として向き合う文化は、選手の自主性を引き出すための土壌になる。
見えないコンディションや感情の変化を丁寧に拾い、選手との信頼を築くその姿勢には、伝統校における次世代の指導のヒントが詰まっていました。

blank image

選手たちが安心して報告できるようなツール

Atleta導入から半年経過しましたが、実際に使ってみた率直な感想をお聞かせください。

導入当初は慣れない点もありましたが、選手たちもスムーズに使いこなせるようになってきました。選手がほぼ毎日欠かさず入力を続けている状況なので、習慣として定着してきたのではと感じています。
avatar

導入のきっかけや、Atletaに期待されたことを教えてください。

これまで練習日誌のような形での記録はあまり取り入れていませんでした。ただ、近年は選手とのコミュニケーションの在り方も変化しており、対面だけでなくSNSなどを通じたやり取りの必要性も感じていました。また、大会前にコンディションが上がらなかったり、ケガで離脱したり、毎年のように起きていたんです。そうした反省も踏まえて、選手とのより良いコミュニケーションとコンディショニングの両面で改善したいという思いから導入を決めました。
avatar

以前はどのように練習データを管理していたのでしょうか。

個人での管理は行っておらず、チーム単位での週次まとめを3年生が交代で担当していました。現在もその運用は続けていますが、Atletaによって選手個人の状態を把握できるようになったのは大きな変化です。
avatar

怪我予防の観点から、Atletaへの期待はありましたか。

選手たちにとって、私のような監督や顧問に対して「足が痛い」などと正直に言うのはハードルが高いこともあります。選考に響くのではないかと不安に感じることもあるのでしょう。そういった思いを少しでも解消しようと考えた時に、画面に向かって入力するという形の方が正直に報告しやすいのではと考えました。
今ではトレーナーもスタッフとしてアカウントに加わり、私ではなくトレーナーに状態を伝えるという運用ができていて、選手たちも安心して報告できているようです。
avatar

導入時、選手にはAtletaについてどのような説明をされましたか。

練習日誌と同じで、「毎日の入力が将来の財産になる」と伝えました。記録することは面倒に感じるかもしれないけれど、それを継続することで、振り返りに使える貴重な情報になる。そういう価値を感じながら取り組んでほしいと話しています。
avatar

理念は継承しつつ、方法は柔軟に進化させるチーム

大学や実業団でも活躍する選手を多く排出されていますが、選手育成において奥村監督が意識されていることはありますか。

卒業後活躍している選手たちの傾向としては、日頃から自分の管理をできている子だと思っているので、指導する上でも目指すのは、選手が自ら自分を管理できるようになることです。

練習日誌の話に戻りますが、練習日誌をつけていないわけではなく、提出を義務付けていないだけなんです。記録用紙は配布しており、自分のために記録しなさいと伝えています。全寮制ではないため、帰宅後の生活までは管理できません。だからこそ「自分で管理する」ように促すことが大切だと思っています。
avatar

実際、どのような声かけをされていますか?

日常的なコミュニケーションの中でも「どうしたらいいですか?」と質問されるのではなく、「こうしたいです」と自分の意思を持って伝えてくるように指導していて、それに対して私が「それもいいね」とか「こうしてみたら」と返すようにしています。私がこのチームの指導を始めた頃からこの姿勢を徹底しているので、先輩から後輩へ自然に受け継がれているように思います。
avatar

強い選手の条件として、自主性以外では何が重要だと感じますか?

「怪我をしないこと」は大きな条件だと思っています。身体の使い方や基礎ドリルを徹底することで、怪我の予防に繋げています。うちのチームでは、練習時間のうち約3分の1以上はドリルや身体づくりに費やしています。例えば肩甲骨と股関節の連動を高めるなど、狙いを明確にしたメニューを組み立てており、それがまさにチームの強さの土台になっていると思います。
avatar

強いチームほど、基礎の重みをちゃんと知っていると感じます。

また、ドリルの意図や目的を説明していく中で、最終的には選手自身が理解し、取捨選択できるようになってもらいたいと考えていて、そのために他の選手に教えることで理解を深めることも重視しています。
avatar

名門・洛南高校の監督として、どのように伝統を受け継ぎ、今の体制を築いてこられたのでしょうか。

監督に就任した当初は、多くの方々から「大変だね」と心配の声をいただきましたし、私自身も大きな不安がありました。特に、前任の恩師がゼロから築き上げてこられたチームであり、その苦労を思うと、自分がその後を引き継ぐことの重みを強く感じました。完成に近い状態でチームを引き継いだ私が、果たしてその責任を果たせるのかという怖さもありましたが、だからこそチームを立ち上げた当初の「思い」や「理念」は、絶対に守り続けたいと常に強く思っています。

一方で、トレーニングメニューの内容や指導方法、あるいはAtletaのようなツールの導入といった「やり方」の部分は、時代や選手に合わせて変えていく必要があります。理念は継承しつつ、方法は柔軟に進化させる。そのバランスを大切にしながらチーム運営を続けています。
avatar

コメントは性格を掴む上で非常に良い材料

Atleta上での記録内容について、特に重視されている点を教えてください。

一番大事にしているのはコンディションコメントです。選手自身がその日の状態を文字で表現することをチェックして、返信したり確認を入れたりすることはとても重要だと考えています。

本来であれば全員に返信したいと思っているのですが、時間的に難しいこともあります。練習後には必ず選手たちが私のところに来て、「今日はこうでした」といったやり取りを短く交わします。ただ、例えば職員会議などでそれができなかった時には、Atleta上に記録されたコメントに返信するようにしています。
avatar

コメントも通じて、選手との関係性をしっかり築いているんですね。

この春は海外遠征が重なってしまい、10日以上チームを離れることもありました。そういう時でも、Atletaにしっかり入力してくれている選手に対しては、コメントを通じてやり取りができました。
実は、ツール導入のきっかけのひとつも、遠征中などでも選手と繋がれる方法を探していたからなんです。
avatar

力になれているようで嬉しいです。コメントの書き方についての指導はされていますか。

基本的には自由に書かせています。指示はしていませんが、よく書けている選手のコメントを紹介したり、部内で共有したりすることで、「もっと書こう」という意識づけを促しています。そうした声かけで、全体の質も徐々に上がってきていると思います。
avatar

Atletaを通じて、見えなかった選手の一面に気づくことはありましたか。

2年生・3年生に関してはある程度理解できていますが、1年生には発見がありましたね。中学時代に実績があって、強そうに見える子が実は繊細だったり、真面目で成績も良い子の入力が大雑把だったりと、意外な一面が見えてくることもあります。

逆に、表向きは強く見える子が、Atletaでは弱音を書いていたりすることもあります。最初は驚きますが、だんだん見慣れてくると「この子はこういうタイプだな」と分かるようになります。性格を掴む上で、非常に良い材料になっています。
avatar

弱っているタイミングの選手に対して、どのようなフィードバックを心がけていますか。

私はどちらかというと「背中を押す」タイプです。必要以上に甘やかすのではなく、自分で立ち直ってほしいという思いがありまして、寄り添う役目は、むしろトレーナーに任せています。

選手にとって一番つらいのは、調子が悪いときや怪我をしているときなので、その時に誰がどう寄り添うかという役割分担は大事です。私の役目は、むしろ「次どうするか」を考えさせてあげることだと思っています。コメントにもそのようなスタンスで返信をするように心がけています。
avatar

目指すは『人として応援される存在になる』

チーム内での競争や選考において、どういった声かけをされていますか。

年間を通じて「誰が選ばれても、みんなが応援できるチームでありたい」と伝えています。選ばれた選手には、仲間から応援されるような存在であってほしいし、選ばれなかった選手には、悔しさを押し込めてでも支える姿勢を見せてほしい。それができるチームは、逆境でも折れない力を持つと信じています。
avatar

チームとしての目標と、選手へのメッセージをお願いします。

洛南高校はまだ全国高校駅伝での優勝経験がありません。いつかはその頂点に立ちたいという思いはありますが、その年その年の目標は、選手たち自身が決めるべきだと思っています。胸を張れる目標を掲げ、それに向かって努力し、卒業していってほしいですね。

選手には「競技を引退しても残るような価値のある競技人生を送ってほしい」と伝えています。人生全体から見れば競技をしている時間は限られています。その時間を大切に過ごして、そして人として応援される存在になってほしいと思います。
avatar
blank image

洛南高等学校 陸上部中長距離パート(らくなんこうとうがっこう)
奥村 隆太郎 監督

<チームの情報>2025年6月現在
選手数:26名
指導者数:1名
Atleta導入時期:2025年2月

<チームの主な成績>
全国高校駅伝:
2023年(全国高等学校駅伝競走大会第74回大会)7位
2024年(全国高等学校駅伝競走大会第75回大会)9位