Atleta通信 | 記録に表れない“伸びしろ”を見抜く指導。伸びる秘密は、選手の「感覚」を尊重するチーム作り

2025.07.24

記録に表れない“伸びしろ”を見抜く指導。伸びる秘密は、選手の「感覚」を尊重するチーム作り

【活用事例】#58 陸上競技 仙台育英学園高等学校 釜石 慶太氏

目次

記録を伸ばすだけでは、強い選手は育たない。

仙台育英学園高等学校 陸上競技部長距離女子・釜石監督が目指すのは、競技力と人間性の深化を同時に叶えるチームづくり。
Atletaの活用により選手の思考や感情の変化にいち早く気づき、コミュニケーションの質を高めることで、監督が示す4つの軸を持った選手育成が実現できていました。

今回は駅伝、強豪チームの強さの秘密に迫ります。

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“感じる力”を育て、“言葉にする力”へとつなげる

長い間Atletaをご利用いただいていますが、導入のきっかけから教えてください。

就任当初は、自分で練習日誌のフォーマットを作って、それを印刷したものを選手に書かせていました。ただ、確認が翌日や数日後になることも多く、リアルタイムで選手の様子が見られないことに不便さを感じていました。そんな時にスマホから管理できるシステムがあると紹介してもらったのが、Atletaとの出会いです。
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日誌を紙に書く良さもあると思いますが、アプリに変えてみてどうでしたか。

最初は「高校生にお金をかけさせずに紙に書かせたい」という気持ちもありましたが、練習日誌は選手にとって自分の過去を振り返るためのツールであり、指導者にとって重要なのはフィードバックの速さだと思ったので、その日のうちに状態を把握できることを優先し、結果的に導入に至りました。
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寮生活だと比較的密なコミュニケーションが取りやすいと思いますが、それでもアプリを使う意義はありますか。

寮は生徒たちにとって“家”ですから、四六時中ミーティングや面談ばかりだと、かえって負担になってしまいます。距離を保ちつつも必要なタイミングでつながれるのが、アプリの良いところです。特に、男子教員として女子生徒と接する際に言いづらいことも、アプリなら書いてくれることがあります。
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本音を引き出せている感覚はありますか。

例えば、練習で伝えたことに対して「一対一で言ってほしかった」とか、「全体の前で話されたのが嫌だった」とか、コメントを通じて気づかされることが多いです。こちらとしては良かれと思ってやったことでも、捉え方は選手によって違うことが分かるので、今の時代に合った指導方法を、日々選手のコメントから教えられている感覚です。
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そういった点で、コンディションコメントが一番重視されているポイントですか。

そうですね。選手には「朝から晩までの気づきや感じたことを、全部書きなさい」と伝えています。1人あたりのコメント文字数はかなり多い方だと思います。
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長文を書く習慣は、導入初期からあったものですか?

こちらから文字数の指定はしていないのですが、“感じる力”を育てて、それを“言葉にする力”に変えていく。そのプロセスの重要性は日頃から伝えているので、その結果だと思います。感じたことを言葉にできなければ、誰かに共有したり指示を出したりすることもできない。それは競技でも、社会に出ても必要な力なので、言語化のトレーニングとしても価値があると考えています。
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記録に映るコンディション、本音ににじむ成長

Atletaの活用が競技の記録やパフォーマンスに直結したような、具体的なエピソードはありますか。

Atletaを使って感じるのは、練習を順調に積み重ねて、練習消化が良くなった選手は自然と肉体的な疲労も精神的な疲労も少なくなってきて、モチベーションも高い状態で安定します。モチベーションに関する項目も、最初は「普通」だったのが、調子が上がってくると「高い」に変わっていって、目に見えて数字が良くなっていきます。
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状態の良し悪しが可視化されることで、選手も自分を客観的に捉えやすくなりますね。

また、振り返りの時も試合後に「なぜうまくいったのか」「どこに原因があったのか」という根拠を探ると、繋がりが見えてきますね。体重の推移なんかもそうです。いいパフォーマンスで臨めた時って、振り返ると体重の管理もいい状態だったりします。
「去年のインターハイ前はどうだったかな」とか「全国高校駅伝のときは体重が何キロだったかな」っていうのも、すぐに振り返れるので、本当に便利です。
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記録をつける上で、選手の中には選考の影響を考えてしまって、痛みなどの情報を素直に書けない子もいると聞きますが、どうお考えですか。

むしろ、そうやって葛藤しながら競技と向き合ってほしいと思っています。もちろん、「報告はしっかりしなさい」と常に伝えていますし、コミュニケーションの大切さも話します。

ただ、やはり勝負の世界ですから、弱みを全てさらけ出すことが正しいとも限らないし、逆に隠すことが悪いわけでもない。その間で、自分と向き合って考えて、悩んで、乗り越えていくことが競技生活そのものだと思っています。そうやって“今は自分で頑張るべきときだ”と気づける選手は、それだけでも立派だと思いますよ。
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自主性のなかにある“管理”、管理の中にある“自主性”

怪我予防の観点で、Atletaや日々の取り組みが役立ったと感じた場面はありますか。

“フリー時間”の使い方ですね。選手が自分の弱点を見つけて、それに対する補強を考えて実行し、継続できる選手は明らかに怪我が減ってきています。「最近走行距離が少ないから少し増やそう」とか、「ここが弱いから補強しよう」と、自分で考えて動けるようになってきています。
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選手の中にも、少しずつ自律的な判断や行動が増えてきているのですね。

また選手から、「明日フリーなので〇分走ろうと思うんですけど、いいですか?」とか、「今日は思い切って休もうと思うんですが」といった相談をよく受けます。中学までは「これをやれ。あれをやれ」と指示されるだけだったと思うので、最初は自分で考える引き出しが少ないのですが、迷いながらも自分で考えて質問してくるのは、非常に良い傾向だと思います。
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高校のチームはトップダウン型の指導が多い印象もありますが、釜石監督はどう思われますか。

正直、陸上界は未だにトップダウン型が多いと思います。でも、監督に言われたことをやっているだけでは、大学や実業団では絶対に通用しません。
もちろん高校では日本一を目指しますが、私の根底にあるのは“大学・実業団で活躍してほしい”という思いなので、全てを管理すると言うより、“自主性”のなかにある“管理”、“管理”の中にも“自主性”があるという感覚で、両者を使い分けて指導しています。
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選手としての4つの軸と、指導者としての3つの軸

釜石先生が、選手の育成において大切にされている考え方があれば教えてください。

私はいつも選手に、「4つの軸を意識して行動しなさい」と伝えています。
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【1】”競技者”としての自覚
日本一を目指すチームの一員であるという意識を持つことです。練習の質、勝負への姿勢、すべてにおいて結果にこだわる姿勢が必要です。競技に真剣に向き合うという当たり前のことを徹底するように言っています。
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【2】”人”としての在り方
これは当然、法律やルールを守るということ。社会の一員として、他人に迷惑をかけず、自分を律して生活する。そこができて初めて、競技者としての努力も意味を持ちます。
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【3】”高校生”としての姿勢
仲間ときちんと関係を築くこと、そして最低限の学習にも取り組むことです。走るだけ頑張っていればいいというわけではありません。学生である以上、勉強や学校生活も疎かにしてはいけない。それが人間としてのバランスをつくると思っています。
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【4】”特待生”としての責任
仙台育英の“顔”であるということを忘れてはいけないと伝えています。看板を背負っているからこそ、校内外でも模範となるような振る舞いが求められる。学校内でだらしない姿を見せていては、どれだけ走れても意味がない。

陸上競技部としては、過去に5回全国高校駅伝で優勝している“誇りあるチーム”であることを自覚し、日々の生活も大切にしてほしいと思います。
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競技者としての意識だけでなく、人としての在り方や特待生としての責任感まで、幅広い視点から選手を育てていらっしゃるんですね。

これらの4つの軸から物事を考えて行動できるようになれば、競技者としてだけでなく、人としても社会に貢献できる存在になるはずだと信じています。

それと同様に私自身の3つの軸があって、 【1】教員として【2】陸上指導者として【3】仙台育英の監督として、の3つの視点で選手に接するようにしています。ただ陸上を強くするだけじゃなく、学校の看板を背負う存在として、ふさわしい振る舞いができるよう導いていきたいです。
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やはりそれだけ名門である「仙台育英の監督」という看板にはプレッシャーを感じますか。

8年連続で全国3位以内という実績を続けてきて、ようやくチームのベースが形になりつつある実感はあります。でも、今はもうやるべきことや目指す方向がはっきりしているので、そこまでプレッシャーは感じていません。むしろ「こんなに努力している選手たちが報われてほしい」という、プレッシャーよりも、願いの方が強いです。
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最後に今後の目標を教えてください。

目先の目標は「10年連続で全国3位以内に入ること」です。私は東洋大学出身ですが、東洋も箱根駅伝で11年連続3位以内という記録を持っています。だから、自分が指導者として目指すのもそこですね。
もちろん、優勝も目指していますが、「1回優勝するチーム」より、「ずっと強くて、ずっと応援されるチーム」でありたい。それが一番の目標です。
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仙台育英(せんだいいくえい)学園高等学校 陸上競技部長距離女子
釜石 慶太(かまいし・けいた)監督

<チームの情報>2025年6月現在
選手数:19名
指導者数:1名
Atleta導入時期:2018年3月

<チームの主な成績>
2024年(第36回)全国高等学校駅伝競走大会 2位
2023年(第35回)全国高等学校駅伝競走大会 2位
2022年(第34回)全国高等学校駅伝競走大会 2位
2021年(第33回)全国高等学校駅伝競走大会 優勝