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2022.10.06

無類の強さを誇る大阪体育大学女子ハンドボール部のチーム作りの秘訣に迫りました

【活用事例】#41 ハンドボール 大阪体育大学 楠本 繁生 氏

目次

全日本インカレで前人未踏の8連覇を果たした大阪体育大学を率い、昨年10月からおりひめJAPANの監督も務める楠本繁生監督のインタビューをお届けします。

監督も主力選手もチーム活動と代表活動の二足の草鞋を履く環境の中、一人一人が主体的にチームを支えている様子や、監督の選手に対する信頼が窺い知れます。長年の積み重ねに裏打ちされたチーム作りの秘訣に迫りました。

今となっては無類の強さを誇る大阪体育大学ハンドボール部が常勝街道を走り始める前の創成期の貴重なお話も伺えました。それではインタビューをご覧ください。

答えや解決策は教えない。「選手本人が考える」・「選手同士で話し合う」アクションを通じて自ら解決策にたどり着けるような指導を。

今日はお忙しいところありがとうございます。現在のチーム状況について教えてください。

昨年のチームが4年生を中心とした頑張りでインカレ8連覇を達成、年明けの日本選手権では日本リーグ2チームを下してのベスト4という結果でした。新チームになって春のリーグはお陰様で全勝優勝できました。私が代表活動であまり帯同できないことも多い中、選手たちが試行錯誤しながら頑張ってくれています。
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監督不在でも強さを発揮できるチームの秘訣は何ですか?

具体的な取り組みとしては私が練習を見れないときでも練習の映像を送ってもらってコメントするなどしています。コロナ禍を経てオンラインのあらゆるツールを使ったやり方が浸透しています。
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実はキャプテンもずっと代表活動に帯同している、教育実習の期間に1か月以上チームを離れる4年生がいる、など選手の出入りが多く、なかなか落ち着いてチーム活動ができていません。それでも選手たちは、大会に出場するための感染予防、本分である学業との両立など各方面に意識を向け、緊張感を保って高いレベルで頑張ってくれています。
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チームとしてまとまっての活動が少なくても結果が出てる要因はどのように分析されていますか?

どういうチーム作りをしたい、どういうハンドボールをしたいという大元の幹となる部分を常に提示しています。その枝葉の部分に、それぞれ個の力をどう融合させていくかが大事だと思っています。メンバーが抜けるとはいっても部員は50人くらいいて練習は問題なく実施できます。練習では個々の課題や目標設定を明確にしたうえでチームとしての方向性を一致させていくというスタイルを大事にしています。入学の時点で目標を持ってきてくれる学生が多いので、それを4年間でどう大成させるかというビジョンをもって活動していることがチーム力になっていると思っています。
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訪問した際、選手が笑顔で「監督は最近全然いません!」と言いながら、私の説明に熱心に耳を傾けてくれました。特にキャプテンとマネージャーの強い責任感を筆頭にチームの自主性・主体性を感じました。その部分についてはどのように指導されているのでしょうか?

答えや解決策を教えることは極力しません。選手本人が考える・一人で考えてもわからなかったら選手同士で話し合う、といったアクションを通じて自ら解決策にたどり着けるような指導を大事にしています。その時たどり着いた答えがたとえ間違っていたとしても、そのプロセスを通じて自主性が育まれていくと考えています。
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監督が長期間不在の中、自主的にチームの活動が進んでいくのは素晴らしいですね。

大阪体育大学にきて13年になりますが、アンダーカテゴリも含めた代表活動の仕事を始めるまでの期間はずっとチームの土台作りに腐心してきました。ある程度礎が形作られてきて、私以上に上級生から下級生へチームのスタイルやノウハウが伝承されるサイクルが確立されてきている感覚があります。
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そのようなチームの成熟に伴い監督のチームに対する関わり方も変化していったのでしょうか?

もともと高校の教員をやっていて、大学に来た当初、他大学の監督さんの様子を見聞きして、少し離れたところからチームを見ているイメージがありました。高校のほうが選手と近いといいますか。私はその部分はむしろ変えず、なるべく選手に寄り添う現場主義を貫いています。最近は代表活動もあり、そう言ってばかりもいられなくなってきましたが、それでも頑張ってくれている選手たちのことを頼もしく見ています。
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「土台を築く時期」と「それが自然と引き継がれていきチームが成長していく時期」とがあったとお見受けするのですが、どのような変遷を経て今に至ったのでしょうか?

着任時から「インカレ優勝」を目標に掲げ、当時優勝になかなか手が届かなかったチームを一度リセットし、「すべてを変革する」というスタンスでスタートしました。それまでのやり方では優勝という目標に届かないことは明らかだったのでかなり劇的に全てを変革しました。当時の特に3,4年生からは反発もありました。
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そこまで劇的な改革をされた背景にはかなりの問題意識があったのでしょうか?

いわゆる体育会的な厳しさがあり、それが機能していた半面、行き過ぎた上下関係がコートの外にも及んでいる様子を目にしました。スポーツ推薦でハンドボールをやるために進学してきた学生が途中で退部するなどの放っておけない状況もあり、変化の必要性を感じていました。
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具体的にどのようなアプローチをされたのでしょうか?

選手たちの本音に迫り、時には厳しく、時には諭しながら関係性を築き、私自身も自己開示しながら、思い描くチームのビジョンや選手に期待することなどを根気強く伝えていきました。
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物事を変えるときは、少しずつではなく一気に変えたほうがうまくいくという持論を持っていて、パワーは必要でしたが、ガバっと一気に行きました。あっという間の13年でしたが、選手や周りの方に支えてもらってここまで来ることができました。
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十人十色な背景を持つ選手に対して常にアンテナを張って情報を逃さない

ハンドボール界に対して、2024年からの「次世代型プロリーグ構想」を筆頭に、体育会的気質からはかなり離れたイメージを持っています。代表監督の立場で様々なチームをご覧になっていると思いますが、ハンドボール界の現状はいかがですか?

各チーム・選手をみていて、高いレベルになればなるほど、目標に向かって何をするか、ということにフォーカスしていて、体育会的な体質というのはだいぶ目にしなくなりました。そもそもスポーツに対する捉え方が変わってきているように感じます。
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ハンドボールに限らず、時代の変化に伴ってスポーツ指導の現場に対する社会からの要請は日に日に増している中、選手指導における絶対的な方法論はありません。指導者自身が学ぶことはもちろんですが、十人十色な背景を持つ選手に対して常にアンテナを張って情報を逃さないようにしていて、そこがやりがいのある部分でもあります。
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お話の中で選手との距離の近さを感じましたが、普段どのようにコミュニケーションされていますか?

例年1月~3月が大会もなく充電期間になります。この期間に面談をするなどして選手と話す場を積極的に設けるようにしていて、進路の話をしたり、わからないこと・悩むことをそのままにしないよう選手には伝えています。
また、Atletaではコンディションについて報告してくれるので、異変を感じたらすぐに連絡して状況を確認しています。選手は「チェックされている」という意識になっていてそれがチームにプラスに働いています。
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Atletaはどういった期待で導入していただいたのでしょうか?

特に当落線上にいる選手が、大事な大会が近いタイミングなどになかなか練習を休みにくかったり、痛みがあっても無理をしてしまう、ということをできるだけ避けたいなあと思っていました。見るからにどこか痛そうな選手であっても、聞くと「いや、大丈夫です。」と答えてしまいます。
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必ずしも休ませたい一心でそういった選手の怪我や病気を把握するのではなく、そういった情報をもとに「その痛みはどこから来ているのか」「やりながら治していけるのか」「大会終わるまでは踏ん張ってそれから休むのか」といった判断ができるようになります。

なので、自己申告をきちんとしよう、ということでAtletaを始めました。最初のころは、私がそれを見ているとわかると選手が正直に申告してくれないので、Atletaの管理はトレーナーに任せていました。
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競技できる期間が限られた学生が、ケガなどの要因でコートを離れる時間を極力少なくし、目の前の大会で少しでも積み上げてきたものを発揮するためにも、選手のコンディションをきちんと把握して最善の対処をしたいと考えています。Atletaはケガの予防・早期発見・早期治療という観点をチームにもたらしています。大きなケガに至る前に先手が打てたケースは何回もあります。
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それは大変嬉しいです。選手に定着しているのも大きいですね。

最初定着するまで、忘れることもよくありました。そうした場合に目的に改めて立ち返ることもそうですが、チームとしての決まり事を守るという社会に出ても必ず必要になることを肌で感じてもらうためにも、Atletaの入力を忘れた日は練習に参加させない時期もありました。
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ただ、「1回言ったからあとはやらないやつがアカン」と突き放すのではなく、顔を合わせるたびにAtletaに関する会話をするなどして選手と並走して定着させていきましたね。
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人は皆一日24時間「平等」に与えられるが、結果は常に「不平等」。この現実をどう受け止めて行動していくか。

前回選手たちと打合せした際、データを見て活用している選手が多い印象を受けました。

大学の強化指定クラブとしてサポートを受けていることの意味を選手には理解してほしいと思っています。特別なサポートを受ける者として背負う物は大きく、与えられる物はフルに活用してほしいと常々話しています。Atletaに関してもただ入力して終わりではなく、そこに蓄積したデータをもとに自分自身にどう意味のあるフィードバックを得ていくことでフル活用しているといえると思います。
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トップ選手を目指す高校生に対してアドバイスをお願いできますか

どうしても目先の結果に目を奪われがちですが、トレーニングでも身体づくりでも1週間や10日では目に見える成果にはつながらず、時間がかかります。前ばかり見てしまいがちですが、時にしっかりと後ろを確認して、毎日の積み重ねを大切にしていってほしいですね。
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トレーニングの時間は1日多くて数時間、残りの時間の使い方を大事にしてほしいという話もよく選手にしています。1日24時間は全員に平等に与えられていますが、結果は常に不平等。この現実をどう受け止めて行動していくかが大切だと思います。
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最後に今後の目指す姿を教えてください

選手たちには周囲からの期待をやりがいや輝きに繋げていって、それを今後の長い人生の糧にしていってほしいなと思っています。
私個人としては、地に足をつけ、今までと変わらず選手に寄り添って学ばせてもらいながら、過去がよかった、ではなく現在進行形でチャレンジしていきたいと思っています。
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大阪体育大学(おおさかたいいくだいがく)女子ハンドボール部
楠本 繁生監督

<チームの情報>2022年10月現在

部員数:部員47名
指導者数:6名(監督、部長、コーチ2名、トレーナー、アドバイザー)

Atleta導入時期:2019年2月

<チームの主な成績>
全日本学生ハンドボール選手権大会:タイトル獲得 9回 (2011年・2013年・2014年・2015年・2016年・2017年・2018年・2019年・2021年)