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2022.10.11

ソフトボール界の名将が語る「日本・世界一を目指すチーム作りのために、選手との接し方」

【活用事例】#42 ソフトボール 厚木商業高等学校 宗方貞徳氏

目次

2022年インターハイ優勝を勝ち取った厚木商業高校ソフトボール部。指導するのは代表監督経験もあるソフトボール界の名将、宗方貞徳監督です。

定年を機に今年度で監督業を勇退される宗方監督がなぜラストイヤーに優勝を勝ち取れたのか。そこには宗方監督が考える年齢が離れた高校年代選手との接し方、そして長年の指導経験がありながらも、なお新しい学びを得ようとする柔軟な考え方がありました。

競技問わず、指導において選手との接し方に悩みがある指導者の方は必読の内容です!

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教え子も『Atleta』ユーザー

インターハイ優勝本当におめでとうございます!優勝は10年ぶりとのことですね。

ありがとうございます。2011, 2012年連覇して以来でした。
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その代ってもしかして光明学園相模原高校で今ご指導されている高橋あゆみさんが現役で選手だった頃でしょうか?

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【活用事例】#05 ソフトボール 光明学園 相模原高等学校
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宗方先生とその教え子の高橋先生が『Atleta』を使われていて、更にそれぞれが神奈川県を代表するチームとして活躍されていることを知ってすごく感動しました。

ありがとうございます。神奈川県を担ってくれる教え子がいるというのは本当に嬉しいことです。
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接し方を間違えるとチームにならないまま大会を向かえてしまう。代表監督の難しさ

宗方先生はU-19日本代表監督の経験もあって、2013年には世界選手権で優勝されていますね。代表と厚木商業のチームとでは選手との接し方や指導方法は変わるものですか。

全然違います。自分のチームは一緒にいる時間が家族より長いので、その中である程度の信頼関係はできますし、本音を言っても大丈夫…と思い過ぎちゃってもいけない、今は難しい時代ですが。

一方で代表は一緒にいる時間が短いし、他所のチームの子を預かるわけですから、選手たちのキャラクターを把握する時間が限られるんですね。選手個々のプライドは高いわけですから、接し方を間違えるとチームにならないまま大会を向かえてしまいます。
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限られた時間の中で気を配りながら選手をまとめるって大変な仕事ですね。

U-19と言っても日本を代表するチームですし、しかも高校卒業して日本リーグやトップレベルの大学に行っている選手ばかりなので、それなりのプライドを持っています。
そこを天狗にさせないように、ダメなものはダメと言いながらも、上手く扱わないといけないのが代表チームの難しさですね。
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年齢的な距離ができた分、選手とのコミュニケーションは必要だと思った

長年指導者として結果を残されている宗方先生が、5年前に『Atleta』という新しい取り組みを導入されて、今なお続けられている要因は何だと思いますか。

中学の教員をしていた当時は部活動内でノートを作って生徒とやり取りをしていたのですが、高校教員になってからはやめていました。
ただ、年齢が上がるに連れて選手たちとは年齢が離れていくじゃないですか。そうなってくると選手は私とだんだん話しづらくなってくるのではと感じていました。
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選手とのコミュニケーションに課題を感じていたタイミングだったのですね。

『Atleta』だとコンディション管理もできますし、コメントのやり取りもできる。毎日全員に返信しているわけではないですが、一週間のうちに必ず一度は個人に返信するようにしています。年齢的な距離ができた分、そういった選手とのコミュニケーションは必要だと思ったので導入しました。
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しっかり毎日『Atleta』の入力をチェックされていますよね。

選手にも「毎日見ているから入れなさいね」と伝えています。
大事なのは部活動が終わってから寝るまでに、その日のソフトボールのことをその日のうちに振り返ることなんです。コメントの内容はどんなものでも構わない。『振り返りをして記録する』という作業自体が大事だから、文章は短くても良いから毎日必ず書きなさいと伝えています。
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コメントで見えてくる、選手それぞれの個性

『Atleta』を始めてみて、選手たちのことをより分かるようになった実感はありますか。

コメントの内容については選手それぞれの個性が出ますね。例えば、私がミーティングで大事なことを言った日に、その日のコメント内でそれについて触れている子と、全然関係ない振り返りをしている子がいます。ちゃんと受け取って欲しいと思っていることを受け取れる子と、そうでない子が見えてくるんです。
そうすると、受け取れる子にチームの話をして引っ張っていってもらいたいなとか、逆に受け取ってもらえない子には何度か直接話しをしないといけないかなとか、非常に参考になります。
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日頃のコメントの中身から、選手の個性が見えてくるものなのですね。

試合終了後に気づいて欲しいこと、インパクトあるプレーをしたから本人の頭に残っているであろうこと、それがコメント内容で、私と一致しているかどうかが見えてきます。
グラウンドで何を伝えないといけないかとか、逆に何も言わなくても分かっているなとか、そういった部分でもコミュニケーションのヒントになります。
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先生の考えと一致する選手とそうでない選手というのは、競技の技術力と関連があるものですか。

そこは関連ありません。技術力と受け取る力は別物で、必ずしも受け取る力がある選手が上手いというわけではありません。
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ということは、技術力と受け取る力を兼ね備えた選手がチームリーダーの素質があるということなのでしょうか。

必ずしもそうでもないんですよね。
技術面とリーダー性というのは一致しませんし、仮に『Atleta』ですごく丁寧にこちらの意図を受け取れているからといって、それとリーダー性はまた別なんです。
ですが、監督の意図を分かってくれるということは非常に優れた素質であり、チーム作りにおいて必ず役立ってくれると思うので、そういった子には適切な役割を与えています。
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学年が進むにつれて、コメント内容に変化はありますか?

上級生になるにつれ、個人の振り返りからチーム全体の振り返りへ変わるかな。そういった変化が見えると普段の練習でも『この子にこんなことを伝えると周りが動いてくれるかな』みたいに考えられて、私も適した接し方ができます。
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『Atleta』を継続することで選手の個性そのものが変わることはありますか。例えば記録することが苦手な選手が継続することで几帳面になったとか…

基本的なキャラクターは変わらないけど、人としての成長を感じます。
下級生の頃は寝る前にちょこっとやる選手もいるわけで。ミーティング内容と関係ないことを書いていたりして、コメント見れば明らかに分かりますよね。そんな子でも、上級生になると人の気持ちに触れてくる内容になるんです。

継続することで間違いなく成長はあります。
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女子チームということもあり、コンディション項目として月経の有無や痛み、つらさといった内容も記録されていますね。

強制させていませんが、入力があれば気にするようにしています。
また入力内容について、私から配慮の声掛けをすることはありません。
怪我や故障についても「どうしてもプレーに支障が出る状態や、練習に配慮が必要になった場合はちゃんと直接言いなさいよ」と伝えています。
最後は自分で直接伝えることが大事だと思うので、そこは徹底しています。その前段階で痛みがあるとかを入力していることで選手たちも話を切り出しやすい環境になっているかなと感じます。
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その他で気にされている『Atleta』の項目はありますか。

食事も見ています。何を食べているかも大事なのですが、ここもコメントと同じで入力しているかどうかが大事ですね。その辺も選手の個性を知る上で非常に参考になります。
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特別な練習なんてない。決勝という大舞台で、いつも通りのプレーをしたチームが勝つ。

宗方先生が指導される上で大切にしていることがあれば教えてください。

県立高校なので学校生活が第一。あと、技術的なことを言えば基本の徹底。そのくらいですね。
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インターハイ優勝されるチームですから、それ以外にも何か秘訣があるのではないかとも思うのですが…!

そんなことないですよ。うちのチームだけがしている特別な練習なんてものはないんです。限られた練習方法の中で本当に基本の徹底、毎日同じような練習を1年中しっかりやる。だから、特別なことは何もないですよ。
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ちなみに、決勝の日は選手たちをどう送り出しましたか。

いつもと変わらず、普通でしたよ。選手にも「特別なことはせずにいつも通りやろうな」って伝えました。それが難しいんですけどね。
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そうですよね。そんな普段と違う決勝という大舞台で、いつも通りのプレーができた選手たちは本当に凄いですね。

勉強できる子もいれば苦手な子もいるし、ソフトボールのレベルも中学日本代表経験者もいれば地区大会すら勝った経験が無い子もいる。
そんな子たち全員を同じグラウンドで同じ方向を向かせてチームを作るというのが県立の特徴ですし、逆に言うとどんな子でも同じグラウンドで一緒にやれるという環境はとても良いところでもあると思います。
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技術力の面でこれほど様々なレベルの選手がひとつのチームに集まるというのはあまりない環境かもしれませんね。

ほんと千差万別ですよ。そんな選手たちが何で繋がっているのかと言うと『このグラウンドでソフトボールがやりたい』ってことだけなんです。その想いはみんな共通して持っているので、強みかなと思います。
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練習を休ませる怖さがあった

コロナ禍でかなり練習が制限される環境だったのかなと思いますがいかがでしたか。

チーム力を上げるために普段は練習量を多くしていましたが、コロナ下で練習量がかなり制限されました。
今までは練習量には自信があったので、「これまでやってきた練習に自信を持て!」と選手たちには力強く言えたのですが、コロナ以降はそれを言うと嘘になりますから。去年の今頃もうちは完全オンラインだったので学校に生徒が来ないんですよ。
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学校で授業が出来ない状況では、部活もできませんよね。

でも、この経験で私も勉強になったことがあるんです。『これくらいの練習量でも優勝できるチームになれるんだな』って。もちろん全国どこも同じような境遇でしたが、うちのチームは明らかに他の私学校よりは練習できていなかったと思いますし。
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少ない練習量でも結果が出せた要因は何だったのでしょうか。

量ができない分、練習を相当絞って、本当に必要な練習だけを集中してこの2年間やらせました。上手く練習を選べば、今までやってきた練習量より少なくてもチームって作れるんだなって。これは厚木商業を指導してきた中で最後の大きな学びになりました。
そして何より良いスタッフがいてくれたことが大きな要因だと思っています。
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宗方先生の感覚としてはコロナ前後でどのくらい練習量が減ったと思いますか。

半分ですかね。今の代の選手たちはコロナで活動できなかった期間が長かった分、強度の高い練習をぶっ通しでやったことが無いんですよ。だから今までの私の経験とは全く異なるスケジュールの組み方をして、休ませることを意識しましたね。それも結果的に良かったのかなと思います。
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何十年もの指導経験の中で、最後の数年がこれまでとは全く違う指導環境になったことについて、宗方先生ご自身が適応するのは大変じゃありませんでしたか。

練習量をさせるタイプではあったのですが、トレーニング理論通り適度な休みが必要なのは正直分かっていたんですよ。でも、勝たせたいという思いも強くて、練習を休ませる怖さがあったんです。練習をさせることがある種、私の安心材料でした。
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宗方先生にとっても『休ませる』ことはトライだったんですね。

インターハイ連覇できた経験もありましたからね。余計に減らすことの怖さが強かったと思います。それでもどこかに『練習やり過ぎかも』という思いはずっとありましたから、良い機会でした。
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練習量が減ったことによって宗方先生も幾分自分の時間ができたかなと思いますが、何をされていましたか。

私自身がコロナになっちゃいけないって強く思っているのでずっと家にいました。
特に自分の子どもとこんなに一緒にいたことは無かったので、長女が果物嫌いなの初めて知りました(笑)今までにない時間を取れて、私自身休めたのも良かったかもしれません。
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毎日選手と本気でぶつかった時間は絶対に嘘をつかない

本年度で厚木商業ソフト部監督としては最後になりますが、今後の宗方先生の目標や楽しみにしていることなどがあれば教えてください。

監督は譲ってもチームには引き続き関わっていくので、新しいチームが新しい歴史を作っていくサポートができれば良いなと思います。今までの経験を活かして若い指導者を育てる仕事も担っていくので、そこを頑張っていきたいです。あとはソフトボールの試合をたくさん観に行きたいです。これまで自分のチームの試合しかほとんど観たことないですからね。特に卒業生が活躍している大学や日本リーグの試合は観たいです。
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最後に、今ソフトボールの後進のために頑張っている指導者へメッセージをいただけますか。

毎日選手たちと一緒にグラウンドで時間を過ごすことが後々力になってくれると思います。
もちろん勝負の世界だから勝ちもあれば負けもありますが、どちらにせよ毎日選手と本気でぶつかった時間は絶対に嘘つきません。地道にコツコツ選手と一緒に頑張ってあげて欲しいなと思います。私自身も含めてね。
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厚木商業高等学校(あつぎしょうぎょうこうとうがっこう)ソフトボール部
宗方貞徳(むねかたさだのり)監督

<チームの情報>2022年9月現在
部員数:14名
指導者数:4名(監督、コーチ3名)
Atleta導入時期:2017年6月

<チームの主な成績>
2011年 全国高等学校総合体育大会 優勝
2012年 全国高等学校総合体育大会 優勝
2014年 全国高等学校総合体育大会 3位
2015年 全国高等学校女子ソフトボール選抜大会 優勝
全国高等学校総合体育大会 3位
2022年 全国高等学校女子ソフトボール選抜大会 3位
全国高等学校総合体育大会 優勝

<プロフィール>
2009年~ 厚木商業高校ソフトボール部 監督
2013年 U19日本代表監督 第10回世界女子ジュニア選手権 優勝
指導者資格 日本スポーツ協会公認 ソフトボールコーチ4