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2022.11.28

愛媛から世界へ。『えひめ愛顔(えがお)のジュニアアスリート発掘事業』の活躍から見る地域スポーツの”今”とは

【活用事例】#45 愛媛県競技力向上対策本部 えひめ愛顔(えがお)のジュニアアスリート発掘事業部会 花山 光利氏

目次

『Atleta』がアスリート発掘事業でも活用されていることをご存知でしょうか。今回お話を伺ったのは、世界で活躍する未来のアスリートの発掘、育成に力を入れている愛媛県の『えひめ愛顔(えがお)のジュニアアスリート発掘事業』に発足当初から関わられている花山光利さんです。
県の事業としてジュニアアスリートを発掘し育てる意義や、今の形に至るまでの苦労、また今後の展望やその中で『Atleta』がどのように活用されているか。これまでと少し違った視点から地域スポーツの”今”を余すとこなく語っていただきました。

組織の目的は国際大会等で活躍する人材の発掘・育成・強化

早速ですが、この『えひめ愛顔(えがお)のジュニアアスリート発掘事業について教えてください。

本事業は2015年(平成27年度)に設立し今年度で8年目になります。この組織の目的は潜在的な才能を有する県内の小中学生の発掘及び育成、最終的に強化し、将来、オリンピックをはじめとする国際大会で活躍する日本代表選手を本県から輩出するとともに、本県スポーツ界の次代を担う指導者となり得る人材を養成するという2つの軸で活動しています。
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事業発足のきっかけは何だったのでしょうか。

愛媛県は知事が福岡県のタレント発掘事業に関するニュースを見たのが始まりで、「良い取り組みだからうちでもやろうよ」という声から始まりました。福岡県は本県の10年前から既に始めていたので、成果が上がっている情報を参考にして募集や選考、プログラムの計画に取り組みました。
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事業の座組は全国で統一されているわけではないのですね。

本県は、競技力を高める部署で本事業を行っていますが、スポーツ協会が主でやっていたり、教育委員会が主でやっていたり、地域によっては市や町単独でやっているところもあるようなので、多種多様ですね。本県はその中でも、日本スポーツ振興センターが日本全体として国際舞台で活躍するアスリートを発掘・育成するシステムを構築することを目的として設立した『ワールドクラス・パスウェイ・ネットワーク』(通称:WPN)に所属しています。そこに所属しているので、日本スポーツ振興センターを通して各都道府県とコミュニケーションを取ったり、アドバイスをいただいたりしています。コロナ禍以前は、WPNでよく会合があったので、その時に知り合った他県の担当者の方たちと情報交換をして、いいなと思う取り組みは本事業にも多く取り入れてきました。
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ジュニアアスリート認定までの流れ

ジュニアアスリート発掘事業は、どのようにして選手を選考するのでしょうか。

毎年小学4年生から中学2年生を対象に募集をしていて、今年は8期生にあたります。小学4年生は新規になるので他の学年に比べて多めの15名程度を選考しますが、その他の学年は追加という形になり、選考数も若干名になります。選考までの流れですが、まず県内の小・中学校の小4から中2を対象に、募集チラシを全員に配布して参加希望者を募っています。応募の際には各学校で行っている新体力テストの結果も添えてもらい、それを元にまず1次選考として書類選考を行います。1次選考を通過した小学4年生約100名、その他の学年はそれぞれ約20名が、次の2次選考に進むことができ、本県独自に設定した測定種目にチャレンジしてもらって、それを通過すると「愛顔(えがお)のジュニアアスリート」として認定、という流れになっています。
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応募者は全体的に競技レベルが高い子が集中するものなのでしょうか、それともばらつきがありますか。

最近はコロナ影響もあり応募の全体数は減ってきていますが、多い時だと5,000名程の募集がありました。選考倍率はとても高くなり選考されるには狭き門ですが、どちらかと言うとこの事業に応募し参加することで『自分の体力に関心を持ってもらい体力向上につなげてもらう』ことも狙いでした。実際には、小・中ともに応募者に占めるA級・B級の割合が6割程度となっていますがD級・E級の児童・生徒も応募してくれています。
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応募する子の中には全くスポーツ経験がない子もいますか。

ほとんどは何か競技はやっていますね。でも、稀に5、6年生で全く競技をやっていない子もいます。我々はそういった子たちを『ノンアスリート』と呼んでいます。全くスポーツ経験がないのに身体能力が高く、これからその子に合った競技を見つけるのは、とても楽しみで、非常に育成のし甲斐があると感じています。
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知的能力開発プログラムと身体能力開発プログラム

集まってきてくれる選手たちのモチベーションはどういった部分が強いのでしょうか。

2つのパターンがあって、1つは『自分に適した競技を見つけたい』というパターンです。これまでの取り組みの中で、競技を変えたことで成績を伸ばした子もたくさんいるので、そこを目的にしている子もいます。2つ目はやはり『今やっている競技の力を伸ばす』ことです。本事業では競技体験だけではなく、知的能力開発プログラムというものも行っています。例えば栄養学やメンタルトレーニング、セルフケア、けがの予防など、今やっている競技にも役立つ知識を学べる機会もあるので、そこを目的として参加している子もいます。どちらのパターンも最終的には、「自分に一番合った競技で活躍する」ことにつながってきます。
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プログラムのお話が少し出ましたが、具体的なプログラムや講義内容などをもう少し教えてください。

プログラムについては先程もお話した知的能力開発プログラムという運動に関する知識を学ぶものと、身体能力開発プログラムという運動神経系や身体の使い方を学ぶトレーニングを行っています。このプログラムでは徳島大学の名誉教授でいらっしゃる荒木秀夫先生が提唱されているコオーディネーショントレーニングという理論を中心に取り入れて、運動神経系の開発を行っています。
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※コオーディネーショントレーニング:https://jacot.jp/about/co-ordination-training/

かなり専門的なことを行っているのですね。

そうですね。コオーディネーショントレーニングで動ける身体をつくり、合わせて、様々な競技体験から普段とは違う身体の使い方を学んでいます。また競技体験を通してその競技団体の指導者から評価を受けられるプログラムも行っています。
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こういった色んなプログラムはどのくらいのペースで実施されているのでしょうか。

月に大体2〜3回くらいのペースです。プログラムの内容等については、大学教員や小・中・高体連の教員、愛媛県出身のオリンピアン等の有識者で構成される専門委員会において、様々な分野からご意見をいただきながら、毎年ブラッシュアップしています。
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測定値とか数字として出てくる情報は大事だが、指導者の目利きもかなり重要

直近で評判が良かったプログラムはどんなものでしたか。

去年から取り入れているコミュニケーショントレーニングですね。愛媛県の県民性もあるかと思いますが、互いに知らない子どもたちを集めると、自分から手を挙げて発言するのが苦手な子が多いんですよ。そこで取り入れたのがコミュニケーショントレーニングで、自分を表現することを学ぶプログラムです。その講師を「坊っちゃん劇場」という劇団の役者さんに来ていただいて、自分を表現する方法を楽しく学べるプログラムを行っています。
また、英会話プログラムも取り入れて、海外遠征に行ったときに、積極的にコミュニケーションをとれるアスリートの育成を目指しています。
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単純に競技力や身体能力の向上といった部分にとどまらず、世界で通用するアスリートを育てている感じがありますね。こういった取り組みがあると保護者にとっても嬉しいのではないですか。

そうですね。保護者からもご好評をいただいています。
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事業開始からの8年間でプログラムの内容は大きく変わってきたのでしょうか。

大きな変化はありませんが、毎年マイナーチェンジを行い、どのような内容が子どもたちにとって良いのか、どのようにすれば適性のある競技を見つけられるのか、という視点でプログラムを計画しています。中でも、本事業では競技適性の評価を行うプログラムの充実を図ってきました。競技の適性を評価するには、測定値とか数字として出てくる情報はもちろん大事なのですが、やはり競技団体の指導者の目利きがもかなり重要になってきます。数字だけではなんとも言えないけれど、競技団体の指導者が選手の動きを見ると『この子はすごい!』となって、実際にその競技をさせてみるといい成績を残したりします。競技適性を見抜くには正解がなく、一筋縄ではいかないので、その都度やり方を変えて工夫をしていかなければいけません。最終的には、国際大会で活躍する選手を育てることが目標なので、競技適性を評価する場面を多くしたり、より多くの競技団体指導者に継続的に関わってもらったりすることが、今後はとても重要だと感じています。
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ご苦労される部分もあるのですね。

各学年により認定者の運動能力も個性も違うので、毎年同じことをしていればいいってことはありません。毎年、認定者の個性をみながら、プログラム内容を考えるのは大変ですが、子どもたちの活躍を想像すると、とてもやりがいのある事業だと感じています。これまで世界大会に出場したり、日本一になったりした修了生や認定者の活躍を見ていると、愛媛県という小さい県の中にも磨けば輝くダイヤモンドの原石はたくさんいるなと感じています。
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『Atleta』のおかげでタイムラグなくコメントでやり取りできる

現在『えひめ愛顔(えがお)のジュニアアスリート発掘事業』の中で『Atleta』をご利用いただいていますが、導入のきっかけを教えてください。

これまでは、運動日誌としてプログラムの感想や毎日の運動の記録、食事の記録、睡眠時間、自主トレの内容などを紙媒体に記録させていました。運動日誌は毎回プログラムがある時に提出させていたのですが、コロナ禍でプログラムができなくなり、日誌の回収すらできなくなりました。日誌は子どもたちと担当者とのコミュニケーションツールにもなっていたので、それができないというのはこの取り組みの中で大きな課題でした。また、タイミング的にも県でICTやDX化を進めていこうという流れだったので、紙媒体に変わるスポーツ関連のサービスはないかと探していた中で、いくつか候補が挙がったのですが、その中でも『Atleta』が一番、本事業に適していると判断して導入しました。
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他の候補のサービスもあったとのことですが、具体的にどういった点で『Atleta』が適していると感じましたか。

どの端末でもアプリとして使えるという点が決め手でした。何らかのアクションに対して端末に通知が届くというのは非常に良いと感じました。
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もともと紙媒体の日誌で運用されていたとのことですが、選手はどのくらいのペースで記録を書いて、どのくらいのスパンで提出していたのでしょうか。

日誌は基本的に毎日書いてもらっていました。ただプログラムが月に2, 3回なので、そのくらいのペースでしかチェックできませんでしたし、コロナで活動が制限されていた期間では提出された日誌に書かれている話題が3ヶ月前のものということもありました。せっかく「大会で優勝しました!」って書いてくれていても、お祝いのコメントを返してあげるのも、だいぶ経ってからになってしまっていました。
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紙運用によるコミュニケーションのタイムラグの課題は『Atleta』導入で改善されましたか。

『Atleta』のおかげでタイムラグなくコメントでやり取りできますし、直接子どもたちと会える回数は限られていますが、毎日やり取りできるようになったので、非常に良くなりました。
また、紙媒体の時は、明らかにプログラムに参加する道中の車の中でまとめて書く子なんかもいて、そこも課題として感じていました。日誌なので毎日書かないと意味ないですからね。それが『Atleta』になったことで、入力が簡単になり入力項目自体も時間がかからないように設定しているので、毎日続けられる子が増えてきたと感じています。
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『Atleta』で今までになかった密なコミュニケーションができている

もともと運動日誌はどんな目的で子どもたちに書かせていたのですか。

トップアスリートの方のお話を色々聞くと、皆さんトレーニング記録を残してその時感じたことを書いて後から振り返るとか、コーチからのアドバイスを忘れないようにメモして、困った時に見返すとかをされていたんですね。それを我々としても子どもの時から定着させたいと思い日誌を導入しました。
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『Atleta』で注視している入力項目はありますか。

やはりコメントですね。単純な記録だけでなくやり取りができるのが良いです。紙の時は子どもの日誌に対して赤ペンでコメントを書いていましたが、それに対して子どもからのリアクションは、あまりありませんでした。それに比べて『Atleta』は、コメントのやり取りが続けられるので、今までになかった密なコミュニケーションができているなと感じます。
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コンディションの中にはどんな情報を記録させていますか。

本事業では、最終的にトップアスリートの育成を目的としており、そのためには目標設定することが重要だと考えていて、そのことは、子どもたちには常に伝えています。そのため、紙の運動日誌の頃から「今年の目標」、「今月の目標」、「今週の目標」をそれぞれ書かせていて、『Atleta』にもコンディション項目に目標を書く欄を設けています。ルールとしては、毎週金曜日に目標を書かせているのですが、実はそこがなかなか徹底できていなくて課題に感じています。『Atleta』のTOP画面に、自分が書いた目標が表示されると、常に目に入って良いんじゃないかなと思っているので、そんな機能がつくと嬉しいです。
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実はそういった要望って他の利用チームからもちらほらいただいておりまして(笑)検討させていただきます。

是非ともよろしくお願いします。
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コンディション管理以外で利用している機能はありますか。

連絡ボードは一斉周知するお知らせや、お便りがあれば添付して使っています。スケジュール機能も、プログラムの出欠確認で使っています。欠席連絡は、今まで電話やメールで行っていたのですが、それがアプリで連絡が簡単になったので、8〜9割の保護者から好評な声をもらっています。『Atleta』のスケジュール機能は欠席理由が書けたり、遅刻時間を入力できたりする点がとても良いです。
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子どもたちと繋がりを持ち続けることが大事

この事業の今後の展望についてお聞かせください。

『Atleta』の利用とプログラムの質はキープしていきたいと思っています。また、目的として将来的に愛媛県から日本代表として世界で活躍できる選手を育てたいというお話はしましたが、それともう一つ、指導者を育成するという目的もあります。そのためには、修了生や認定者との繋がりを持ち続けることが大事だと考えています。事業として見ているのは小中学生ですが、その子たちが高校、大学、社会人になっても、ずっと繋がりを持ち続けるためにどのような手立てが必要かを、事務局内で協議しているところです。今ではメールやSNSなどもあって繋がりやすくはなっていますが、ずっと繋がりを保つことって非常に難しいと感じていて、そこが課題ですね。
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修了生からその後の報告など来ますか。

うーん、報告が来ることもあるんですけど、基本的にはこちらが修了生の競技成績に注目し続けて、情報を取りにいく状態ですね。また、競技団体の方から情報をもらったりしてその後の活躍をチェックしています。修了生もこれからどんどん増えていきますから、そのみんなと繋がり続けることができるかどうかが気になるところでもあるので、そこも『Atleta』をうまく活用できるようになったら良いなと思っています。
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この事業を通して、愛媛県としてのこれからの目標はありますか。

何よりも数多くの子どもたちに一番適した競技で日本代表になってもらうことですね。世界に羽ばたける選手になってもらうこと。そして最終的にはそんな彼らが指導者などのスポーツに関わる仕事に就いて、愛媛県はもとより、日本で、そして世界で活躍するそんな人材を1人でも多く育成していきたいと考えています。
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愛媛県競技力向上対策本部
えひめ愛顔(えがお)のジュニアアスリート発掘事業部会
花山 光利(はなやまみつとし)様

<事業情報>2022年10月現在
ジュニアアスリート:146名
担当者:5名
Atleta導入時期:2022年4月

「えひめ愛顔(えがお)のジュニアアスリート発掘事業』とは

この事業は、科学的な手法を用いてスポーツの潜在的な才能を有する県内の小中学生を発掘し、
中学3年生までの期間、育成・強化することにより、
将来、国際大会で活躍する日本代表選手を愛媛県から輩出することを目指すとともに、
将来の愛媛県スポーツ界の指導者となり得る人材を養成することを目的としています。

本事業は、日本スポーツ振興センターが提唱する
地域タレント発掘・育成事業との連携・協働体制「ワールドクラス・パスウェイ・ネットワーク」の
組織体制の中で進めてまいります。
(公式HP:https://www.ehime-jr.jp/より転載)