2024.08.26

大分東明高校ラグビー部、選手育成とケガ管理で頂点へ。九州制覇の舞台裏

【活用事例】#53 ラグビー 大分東明高等学校 白田 誠明氏

目次

先日全九州高校ラグビー大会にて絶対王者東福岡高校の牙城を崩し、更にはこのインタビュー直後に行われた7人制ラグビーの全国大会では準優勝に輝いた強豪、大分東明高等学校 ラグビー部。今日はそんな実力派のチームを率いる白田監督と斎藤コーチにお話を伺いました。

Atleta』を駆使したケガ管理で常にチームをベストな状態に維持する活用術や、選手一人ひとりに寄り添った想いのこもった指導論は、全スポーツ指導者必読の価値有りです。 

どのレベルに行きたいのか、最終的にどんな結果を残したいのかという大きな目標をきちっと決めさせる

まずは先日の全九州高校ラグビー大会での優勝おめでとうございました。指導者の立場から今回の優勝という結果はどのように捉えられていらっしゃいますか。

ありがとうございます。そうですね、特に今年に限って変わった事を取り入れたわけでは無く、毎年やり続けている事を少しずつアップデートして、それに合わせて選手やチームの基準がアップデートできた結果だと感じています。
avatar 白田 誠明 監督
まさに白田監督が言ってくれたように、今年急に強くなったわけではなくて、毎年積み上げてきたものが結果に繋がったと感じています。僕がチームに入ったのは2年前なのですが、その時と比べるとウェイトトレーニングや食生活、自分の体重に対する選手たちの意識や向き合い方のスタンダードが上がってきたのを感じています。特に僕は寮も見ているので、寮生活からもそれを感じますね。
avatar 斎藤 芳徳 コーチ

選手の基準が上がってきた結果が今回の優勝に繋がったとのことですが、白田監督はチームに関わってからもう13〜14年になるかと思います。チームとしての目標達成も近くなってきたなといった実感はありますか。

そうですねぇ、勝ち負けも大事なんですけど。彼らが望む目標を達成させたいとは思いますし、それに向けて選手たちが高い意識を持てるようになってきたことは非常に喜ばしいことですが、じゃぁ日本一になるためにラグビーをしているのかと聞かれると、それはどうかとも感じていて。もちろん彼らが日本一を目指している以上、それに向かってサポートするし、そのための練習を考えますし、コーチ陣とも協力していきますけど、僕自身「是が非でも日本一に!」っていう感じではないかもしれないです。
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なるほど、確かに日本一ばかりに注目すると、「日本一以外はダメなのか」ってことになりますからね。白田監督は選手たちの目標設定を重視されていると伺ったのですが、具体的にどのような取り組みをされていますか。

年度始めには目標設定について選手たちに話をして、どのレベルに行きたいのか、最終的にどんな結果を残したいのかという大きな目標をきちっと決めさせて、その成功のためにどんな日々の過ごし方をするのか、どのレベルの練習をしていくのかを意識させるようにしています。そうすることで、日々の反省の材料になったり、具体的にこんな技術が必要だねということを選手たちに求めやすくなったりするんです。ただ単に「勝つぞ」だけでは何も続かないので、目指すべきものをより具体的にした目標を立てさせることを重要視していています。目標立てさせるために、長くて3日間話し合うこともありますよ。
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それほど重要度を高く設定されているのですね。3日間話し合うというのは、練習の中で目標設定ミーティングのようなものを設けているということですか。

そうですね。チーム始動して最初のミーティングでキャプテン決めとかやるのですが、その中で目標設定の話をして、しっかり時間を取るようにしています。
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目標設定後も常に目標への擦り合わせのためのコミュニケーションを選手と意識的にされていますか。

設定した目標に対して日々の練習がそのレベルに達しているか常に振り返らせて選手と話すようにしています。目標がちゃんと設定できていないと今何をしているのかよく分からない状況になりますからね。
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専門家のサポートで練習以外の部分の解像度が上がった

今のチームのスタッフ構成を教えて下さい。

スタッフは全員で6名体制です。
私が部長監督の形でチームを見ていて、学校の体育教諭がコーチとして2名、そしてこの場に参加している斎藤がコーチ兼寮監として、以上の4名で普段の練習は見ています。そこにトレーナーが1名とスポーツ栄養士1名が参加してくれています。
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とても万全なスタッフ体制だなという印象なのですが、この体制に落ち着くまでに時間はかかりましたか、それとも初期の頃からこの体制を実現できていたのでしょうか。

当初は前任の監督と僕の2人体制でした。そこから数年かけて少しずつ増えていって、ここ2,3年で今の体制になりましたね。
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やはりこのスタッフのサポートというのはチームがレベルアップする上で重要なファクターだったと感じますか。

そうですね。僕らは練習やラグビーのスキルそのものの判断や指導はできるけど、例えばケガのことだと自分が経験した範囲でしか判断できませんから、やはり専門的な方の意見も必要ですし、食事面においてもコンディション面においても、栄養士やトレーナーのサポートをもらうことでより効果的にレベルアップできると思いますね。
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トレーナや栄養士の方は定期的に練習にいらっしゃるのですか。

来てもらったタイミングで気になる選手を捕まえて話してくれています。こちらからするとそういった接し方はとても助かりますし、僕らだけじゃ気づかないところもしっかり見てくれるので、練習以外の部分の解像度が上がりました
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ケガの状況については『Atleta』を使って管理いただいていますが、この辺の情報をトレーナーと連携されているということですか。

(※連絡ボードのチームノートを活用して、「部位」「リハビリプラン」「現在の状態」情報等を、選手⇄トレーナー間で連携して運用している)

はい。そこを見てもらいながらケガから復帰までのケアや選手の指導をお願いしています。選手自身が、ケガからの復帰のために何をするべきなのかをトレーナーとやり取りすることで、ケガした後の取り組みへの意識が違ってくるので、このような使い方をしています。
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まさに『Atleta』の理想的に使い方だと思っているので、ご活用いただけて嬉しいです。特にラグビーはコンタクトスポーツでケガ管理が重要な競技だと思うので。

コーチとして重要なのはいかにベストメンバーを大事な試合に立たせてあげられるか、そしてそれに向けた健全な競争させられるか

具体的に『Atleta』の活用についてお伺いしたいのですが、選手のどのようなデータを注視されていますか。

基本的に選手が登録する疲労度は毎日チェックしていて、その疲労度に合わせて練習メニューをコーチ陣と話し合って作成しています。
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どのくらいのスパンでの疲労度を見ているのでしょうか。

基本的には1週間分を見ていますが、しんどい練習をした次の日とかはコンディション管理一覧で一人ひとりの登録された疲労度を見ています。
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データの確認はスマホアプリからですか。

いえ、パソコンを使っています。パソコンの方が見やすいので。
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白田監督はいかがでしょうか。

時間がある時はやっぱり見やすいのでパソコンで見ています。見る項目としては疲労度も気にはしていますが、それよりも体重の増減ですね。特に夏場はやはり体重が落ちる選手が多くて、そうなると調子が良くないのかなと気になります。あと身体の気になる部位ですね。斎藤コーチが今話した様に、コンディション管理の方を気にしてくれているので、僕は体重とかケガの部位とか、あとはコメントが入っていればそこを見ています。
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疲労度についてですが、具体的に気にする値というか目安みたいなのはありますか。

選手たちはそこの入力の仕方が極端と言いますか、疲れているときは90とか100とか書いてくるんです。疲れていないときはほぼ0みたいな感じで、分かりやすいと言えば分かりやすいのですけどね。全体の平均を見て、チーム全体の平均が高い場合はその日の練習は短めにするとか、コンタクトメニューを減らすとか、そういった感じで練習メニュー組む際には活用しています。
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『Atleta』でケガ管理をすることで、得られた成果などはありますか。

それこそ今回優勝できた九州大会ではほとんどベストメンバーで挑めましたし、ここ最近の練習でもほぼケガ人が出ない状態が続いていて、夏合宿やこれから始まる7人制ラグビーの全国大会(結果:準優勝)に向けてフルメンバーで、今練習が常にできている状態なのが成果だと感じています。コーチとして重要なのはいかにベストメンバーを大事な試合に立たせてあげられるか、そしてそれに向けた健全な競争をさせられるかだと思います。みんなが上手くなった状態で最後にメンバーを選べる状態が、チームにとっても選手にとってもベストであって、その中でケガは一番もったいないので、そういった面で現状はとても良い状態だと思います。
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ケガによる選手の離脱を減らす努力の積み重ねが結果に繋がっていると我々も実感しておりますので、引き続きご活用いただけると幸いです。

指導者サイドのテンションやモチベーションを常に100%で練習に向けることは最低条件

チームには日本代表に選出されるレベルの選手も輩出してきている中で、このような高いレベルの選手たちのモチベーションの上げ方について指導者として意識されていることはありますか。

練習を活気あるものにするのは絶対条件だと思っています。指導者側のテンションやモチベーションを常に100%で練習に向けることは最低条件です。あと選手たちのモチベーションをどう上げるかですが、やっぱり良い選手、頑張っている選手を引き上げて、例えばミーティングの中で名前を上げてあげたりですね。また、頑張ってはいるけどどうしてもスキル面でまだ足りていないなと思う選手に対しては本人にそっと囁く感じですかね。「最近頑張ってんな!」って。あとは間接的に届くように別の選手に伝えるとかですね。
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選手に合わせてモチベーションの上げ方を工夫されているのですね。指導者の経験を積んできたことで、このような指導形式になってきたのでしょうか。

僕もやっぱり怒られるより褒められる方が好きだったし、人って頑張れていないことを一番分かっているのは自分なので。それをどう認めさせるかを考えた時に、それと向き合うためにはやっぱり見てくれている人の存在で、その人との関係を築けて初めてその人からの指摘が自分の耳に入るものだと思うので、まずはとにかく良いところを見つけてあげるのが今の指導の仕方なのかなと。昔みたいに「オラ!コラ!」みたいなのは今の子どもには入っていかないし、モチベーションも上がらないのでね。
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昔と今とでは伝わり方も違いますもんね。

「これができないからダメだ」ではなくて、「これができるともっと良くなるよね」って伝え方ですね。基本的にこういった指導は、「この選手ならこれができる」と思って伝えるわけですから、あくまでプラスの言葉で締めてあげるように意識しています。
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斉藤コーチは、選手とも年齢が近いと思いますが、選手への指導者コミュニケーションで意識されていることはありますか。

僕はまだ身体が動くので、具体的なプレーを見せるようにしています。視覚的に選手に指導する意識ですね。気持ちの面は先程のお話の通り白田監督が上手くコントロールしてくださっているので。言葉でのコントロールは勉強中ですね。
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練習の中で技術的な動きを選手たちに見せてあげているのですね。

プレーを見せて、選手にさせて、少しでもできるようになったら、最初は10回中1回しかできなくても、それが10回中5回、10回中8回みたいな感じで精度を上げられる指導をしています。大切なのは『できない』という先入観を外してあげることですよね。とにかく指導の数をこなしてできるまで教えて、選手自身が『自分にもできるかもしれない』という状態を常に作れるように僕は動いています。
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気持ちの面では白田監督の言葉を受けて、実際に斎藤コーチのプレーを見て練習を続けることで自分にもできることを実感していく。選手の自己肯定感が上がる非常に素晴らしい指導のコンビネーションだと感じました。

スローガン”EnjoyRugby”

大分東明高校ラグビー部では ”EnjoyRugby” というスローガンを掲げていらっしゃいますが、これはどのような想いが込められているのでしょうか。

これは僕が就任した時に決めたもので、もう13年くらいこのスローガンを掲げています。選手はみんなラグビーが好きでこの部活に入ってきていると思うので、まずはその気持ちを忘れて欲しくないという想いがあります。それとは別で、とはいえ全てが楽しいだけでは世の中生きていけないわけで、ただ楽しむのではなく「自分の成長を楽しむ」という観点を持って欲しいなと思っています。
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「成長を楽しむ」ということはどういったものですか。

自分が成長できたって感じられることって楽しいと思うんですよ。能力が伸びたり、スキルが上達したり、心も強くなったり、こういったことを楽しめる選手が上手くなる選手なんですよね。そのためには苦しむことももしかしたらあるかもしれない。でもそれを乗り越えた先には必ず楽しみが待っているから、目標達成して強くなった自分を想像しながら、この苦しみさえも楽しもうというのが ”EnjoyRugby” の本質です。これも先程話した「プラスに物事を考えた方が良いよね」って話につながるのですが、嫌だな、面倒くさいなってことをプラスに転換できるようにという発想から生まれたスローガンです。
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ちなみに今回九州大会で優勝を果たした瞬間は、このスローガンを達成できたなといった感覚はありましたか。

そうですね。やはり東福岡さんは強かったですし、決勝に至るまでの勝負も常に紙一重の戦いで、この紙一重の部分がいつひっくり返されてもおかしくなかったと思いますが、そうならなかったのは選手たちがしんどい中でもすぐに立ち上がってタックルに行ったり、身体が痛くても前に出ることを続けてくれたり、そういったことを続けた結果が今回優勝に繋がって楽しむことができたので、 ”EnjoyRugby” が体現できたかなと思います。
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彼らが一生懸命やってくれることで共に喜びや楽しさを味わわせてもらっている

これからの7人制ラグビーの全国大会や冬の花園に向けて夏合宿も始まると思いますが、今後の目標について教えて下さい。

選手たちの目標はベスト4ということで新年度はスタートしたので、それに向かって頑張って取り組んでいこうと思っています。
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やはりそこもベースは選手たちが設定した目標で、それに向けてスタッフのみなさんはサポートしていく形なのですね。

そうですね。あくまでも主役は選手たちなので、彼らのために僕たちはできるサポートをやっていくだけです。彼らが一生懸命やってくれることで共に喜びや楽しさを味わわせてもらっているので、僕らも一生懸命サポートできればなと思います。
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最後に普段は選手たちには言えないようなメッセージがあれば、ぜひこの場でいただきたいのですがよろしいですか。

おっさんの趣味に付き合ってくれてありがとう!まぁそんくらいですかね(笑)
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面白いお言葉ありがとうございます(笑)インタビュー前は厳しい方なのだろうなと思っていたのですが、今日の話や最後の一言をいただいて、選手に寄り添う優しい方なんだなと。

やっぱり彼らがラグビーしてくれなかったら僕らは何もすることないので。ほんとラグビーしてくれてありがとうですよ。だからこそ彼らにお返しできるように、一生懸命こちらも頑張ってお互いが満足にできればいいなと思います。
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ありがとうございます。斎藤コーチからも一言いただけますか。

いやぁ白田監督に全部言われましたよ(笑)まぁ、強いて言うなら、ラグビーを好きでい続けてくださいってことですかね。好きじゃないと続けられないので。もちろんそのために全力でサポートしていきます。
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素敵なお言葉ありがとうございます。今後もチームの活躍を期待しています。本日はありがとうございました。

大分東明高等学校 ラグビー部(おおいたとうめいこうとうがっこう)

白田 誠明(監督)
斎藤 芳徳(コーチ)

<チームの情報>2024年8月現在
選手数:65名
指導者数:6名(監督、コーチ:3名、S&Cコーチ/トレーナー:1名、スポーツ栄養士:1名)
Atleta導入時期:2022年1月

<チームの主な成績>

2024年度:
第11回全国高校7人制ラグビー大会 準優勝
第77回全九州高校ラグビー大会 優勝
第72回大分県高等学校総合体育大会 優勝

2023年度:
第103回全国高等学校ラグビーフットボール大会 3回戦
第103回全国高校ラグビー大分県予選 優勝
第10回全国高校7人制ラグビー大会 プレートトーナメント準決勝
第71回大分県高等学校総合体育大会 優勝
第25回全国高等学校選抜ラグビーフットボール大会 2回戦