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2023.04.19

大学女子バスケ監督が振り返る、チーム作りの難しさと克服法。次なるステップへの展望とは?

【活用事例】#48 バスケットボール 大阪産業大学 玉井 里英氏

目次

今季創部初の関西女子学生バスケットボールリーグ1部昇格を決めた大阪産業大学女子バスケットボール部。今回はそんな実力ある大阪産業大学女子バスケットボール部の玉井監督にお話を伺いました。現役引退から指導者の道に進んだ玉井監督が感じた指導する難しさ、それを乗り越えるために切り替えた考え方を始め、選手とのバランスの取れた距離感の取り方や、判断基準を見つけるための『Atleta』の活用法など、かなり深い話まで伺うことができました。

言語化して選手に伝える難しさ

まずは玉井監督ご自身の経歴からお伺いしてもよろしいでしょうか。

私は大阪人間科学大学出身で、大学卒業後の1年目はJALラビッツ、翌シーズンに新潟アルビレックスで合わせて2年間Wリーグで選手として活動しました。選手引退後の進路を考えた時に『バスケットボールの指導をしたい』と思い、ミニバスのアシスタントコーチとして2〜3年帯同し、それから大阪産業大学のお話をもらって今に至ります。大阪産業大学の監督として携わって9年目になります。
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『指導者をしたい』というお考えがあったとのことですが、そのきっかけや実際にその道に進む判断に至った経緯など教えてください。

現役引退自体は、自分の弱さもありましたが実力が敵わなかった点と、気持ち的に『この環境の中で自分は勝っていけないな』と感じてしまったことが理由です。指導者としては、バスケットでしか生きて来なかったので、引退後に他の仕事が思い浮かばなかったし、正直できなかったですね。選手を辞めたことで自分が今まで培ってきたものが0になって、またイチから別の世界に進むことが自分の中で許せなくて。だったらこれまでの経験を生かしてバスケットを教えるしかないなと思ったので指導者の道を選びました。
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指導者になって難しいと感じることはありましたか。

言語化するのが難しかったですね。自分は当たり前にできることや、そこまで考えなくても身体が動いていた部分を言語化して選手に伝えるってことがすごく難しかったです。監督という経験ももちろん初めてなので、本当に手探りでした。あと、私自身高校大学と強豪チームに所属していたのですが、強いチームにはそれぞれの伝統があって、チームのスタイルとか運営とかが出来上がった状態だったんですね。一方で大阪産業大学は私が指導を始めて2年目でようやく強化指定部になったチームなので、どうやってチーム作りをすれば良いかはかなり悩みましたね。
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チーム作りですごく悩まれたということですが、具体的にどんなことを経て今のチームの形まで成長させたのでしょうか。

最初は本当に毎日手探りでやっていました。私が選手の時はチームが勝つことだけを考えひたすらやってきたので、当時からチーム作りなんて考えたことがありませんでした。指導者になって初めて『チーム作り』という、分からないしできないし苦手なものにフォーカスし続けちゃったので、当時はできない自分に苛つくこともありましたし、それが選手たち伝わってしまっていた時期がありましたね。さすがにこのままでは良くないと思い、あるタイミングからもう割り切って、考え方を少し変えて、とにかくこのチームが勝つために選手と接して指導をするようにしたんです。その中で選手たちの人間性が分かってきたり、チームとして何が必要か見えてきたりしたので、問題が起きたとしても、起きてから選手たちと一緒に考えて解決していけばいいや、それよりもとにかくバスケットで勝っちゃおうって考え方に変えました。
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そのような考え方のシフトを経て、2022年度関西女子学生バスケットボールリーグの2部で優勝という結果が出たのですね。やはりチームの変化は感じますか。

バスケに関しては選手が信頼してくれたこと、負けない術と言うか、勝つために何が必要かを選手たちが理解できるようになったことを感じます。また、チームとしてはバスケット以外のとこで駄目な部分がたくさん見えてきたので、チーム運営の中で修正を進めています。
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『Atleta』での情報共有がコミュニケーションのきっかけになる

『Atleta』の導入を決めたきっかけを教えてください。

元々紙で体調とかケガを管理していたのですが、合宿の際に他のチームが『Atleta』を使っていて、そのチームから紹介してもらったのがきっかけですね。入力が簡単だったし、管理のしやすさを感じたので導入することにしました。
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運用が楽にできそうという観点で導入を決めて頂いたのですね。実際にチームでどのように運用されていますか。

私とアシスタントコーチ、あとトレーナーの3名で『Atleta』を利用しています。ケガの管理や、必要な情報は記録してもらっています。私自身スタッフと積極的にコミュニケーションするタイプではないので、だからこそ『Atleta』の中で情報共有できることはありがたいですし、コミュニケーションのきっかけにもなっているので非常に助かっています。
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監督が一番注視している機能や項目はありますか。

体温とケガの状態、あと疲労度ですね。疲労度によって練習強度を変えているのでそこは特に気にして見ています。『肉体的な疲労度』と『精神的な疲労度』項目について、気になった選手にはアシスタントコーチから気にして見てもらうように、運用しています。
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データ管理をしっかりされている印象を持っていますが、活用している数字や基準値のようなものはありますか。

フィジカルテストの数字を一昨年からこだわるようにしています。シャトルランやトレーニングの結果を数字で出して連絡ボードを使って選手にデータを共有するような活用をしています。
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自分が困って助けを求めた時に受ける声の方が耳に入る

コミュニケーションのきっかけになっているとお話ありましたが、『Atleta』を通じて気づけたエピソードなどありますでしょうか。

選手としゃべる時に、『Atleta』を入れてくれていることでより具体的な会話ができ、コミュニケーションしやすくなったと感じるのでその点がありがたいです。
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気になる点があった際、監督から積極的に声掛けしますか。

実は私からは声を掛けることはほとんどないです。人って本当にしんどくてどうしようもない時に初めて人を頼ると思うので、こちらからアプローチして聞く話よりも、自分が困って助けを求めた時に受ける声の方が耳に入ると思っています。だから入力に対して気にはするけど私からは基本声を掛けないようにしています。
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食事管理もしっかり活用されている印象ですが、どのような観点で見ているか、教えてください。

体調管理の部分もそうですが、食事も登録内容を細かく気にするってよりかは、毎日誰が入力しているかとか、これまで入力していなかった選手が入力を始めたタイミングとか、そっちの方を気にして見ています。
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『Atleta』の食事管理をきっかけに食品関係の会社に就職した選手も

チーム全体の『Atleta』の入力状況や内容を集計して連絡ボードで選手に展開されていましたが、あれはどのような意図があったのですか。

最初はみんなの中でちゃんと入力している選手がいることを知ってもらうことと、その選手が具体的にどんな内容を入力しているのかを他の選手に知ってもらうことが目的でした。真面目にやっている選手からするとピックアップされることは嬉しいでしょうし、頑張っている選手がちゃんと評価されるように使っていました。
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そのような取り組みを通じ、選手からの反応はありますか。

今年卒業する選手の中で、『Atleta』をきっかけに食に興味を持った子がいて、食品関係の会社に就職が決まったので、そういった影響はありました。
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それは我々にとっても嬉しい話です。選手たちの身体作りの面では変化はありますか。

太りやすい選手がいるのですが、その子がコロナ禍で練習できない時期にやっぱり太っちゃって、そこから食事管理を入れるようになって、結果的に適正体重を保つことができたし、身体つきが目に見えて変わったので、かなり変化を感じましたね。『Atleta』を使って自分はどれだけ食べなきゃいけないとか、どこまで食べて良いとかを知ることができたって話をしていました。
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真面目な選手を基準に。頑張っていることを評価したい。

疲労度について具体的に気にする値や見方などありますか。

チーム全体的にしんどい人が多かったら気にするようにするのと、あと毎日食事の登録もしているような真面目な選手がしんどいサインを出していたら気にしますね。
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食事を毎日入れる真面目な選手もいらっしゃるとのことですが、入力を続ける選手と続けられない選手の差はありますか。

あります!3,4年生が変わり目なので、3,4年生になってから自覚して入力する選手は増えますね。その頃になると試合に出られる機会が増えるので、それと同時に自覚が芽生えるのかなと感じます。以前までは「体温入力していないと練習参加させないよ」と強制できていたのですが、今後は自由になるので、その中で真面目に取り組む選手とそうでない選手を把握するために、登録内容云々よりもまず信頼できる選手かどうか、その見極めのために続けている部分もあります。
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練習の強度調整について教えていただきたいのですが、具体的にどういった調整を行っているのでしょうか。

チーム全体で疲労度が高い時はできるだけハーフコートの練習にしたり、時間を短くしたり、あとは思い切って練習やらなかったりもしますよ。そこの判断は、普段しんどいって言わない選手が『Atleta』で疲労度を高めにつけていると休みにしています。先程も話した通り、そういった基準になる選手を見つけるために『Atleta』を見ています。毎日真面目に入力している選手ほど体調もしっかり変化が出ます。なんとなく入力している選手は毎日同じ登録内容になりがちですし。そういった部分も含めて真面目に入力してくれる選手を基準にしています。
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基準となる選手をウォッチして練習強度を判断されているのですね。

あとは、食事をちゃんと入力してくれた選手には試合の時にゼリー渡すキャンペーンなんかも実はやっていて。入力を強制することはないのですが、ちゃんと頑張っている選手が報われるようにしています。このキャンペーン、選手には伝えてないので選手によっては『なんであの子はもらえるんだろう…?』って思っている子はいるかもですね。
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これ…記事にしちゃっても大丈夫ですか?

全然大丈夫ですよ(笑)大学4年間で成果を出しきれないことって多いんですよ。バスケットの中でも技術的に上手い下手があって、上手い子だけが試合に出られて、どれだけ頑張っても試合に出られない選手もいるわけですが、頑張っていることについては評価してあげたいので、ゼリーをあげたり、スポンサーから商品の紹介をもらったらその子たちに案内してあげたり、そんなことをしています。
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これから選手たちと一緒にチームを作り上げていきたい

最後になりますが、今後のチーム目標や目指すチーム像を教えてください。

インカレに出場するという大きな目標はあるのですが、うちのチームには歴史や伝統がまだないですし、今年は創部初の1部昇格を始め、色んな結果が更新できた年だったので、まずは1部に定着できるようなチームになることを目指したいです。とはいえそこに向けた具体的なことはまだ明確ではないので、日々の練習や試合の中で言語化していきたいです。まだ『大阪産業大学バスケ部はこうだ!』と言い切れる状態ではないので、これから選手たちと一緒にチームを作り上げていきたいです。
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大阪産業大学 体育会女子バスケットボール部(おおさかさんぎょうだいがく)
玉井 里英(たまいりえ)監督

<プロフィール>
JBAバスケットボール公認コーチB
中高・保健体育教員免許

<チームの情報>2023年4月現在
部員数:23名
指導者数:3名
Atleta導入時期:2019年1月

<チームの主な成績>
◆2022年度
全関西女子学生バスケットボール選手権大会「7位入賞」
西日本学生バスケットボール選手権大会「ベスト16位入賞」
2部リーグ戦「全勝優勝」入替戦に勝利し1部昇格
関西女子学生秋季トーナメント大会「優勝」

◆2021年度
関西女子学生バスケットボール2部リーグ6位