北九州市立高等学校 陸上競技部
高校で育てるのは、速さだけじゃない。自律を育む女子駅伝部監督の挑戦(北九州市立・陸上競技)

北九州市立高等学校 陸上競技部/大田 賢治氏
<チームの情報>2025年6月現在
選手数:16名
指導者数:4名(監督、副顧問、外部コーチ2名)
Atleta導入時期:2022年4月
<チームの主な成績>
2024年度:
全国高校女子駅伝(第36回)11位
TOKYO Spring Challenge 2023(日本グランプリシリーズ グレード2) 出場
2023年度:
全国高校女子駅伝(第35回)11位
インターハイ(全国高等学校陸上競技対校選手権大会)3000m 8位入賞、1500m 決勝進出
「管理」から「自己理解」へ──活用目的の再定義
Q:前監督がAtletaをチームに導入されて、大田監督はそれを引き継ぐ形となりましたが、引き継ぎはスムーズにできましたか。
└引き継ぎ自体は問題ありませんでしたが、おそらく前任とはAtletaの活用理由が変わったと思います。以前はあくまで「チーム管理」のツールとして使われていたと思います。
でも私は選手自身が自律していくための『自己理解を深める』ツールだと思っています。
私の中では、Atletaはチーム管理のためのものではないんです。
Q:選手たちに、具体的な使い方の指導などはされていますか。
└そこも特別私からは何も言ってなくて。例えば、「コンディションコメントには自分の状態や考え、それを踏まえて今後どうしていくべきかを書いたほうがいいよ」くらいは伝えますけど、それ以上は指導しませんし、チームの中には毎回登録できる子もいれば登録が途切れる子もいて、それ自体についても私からは何も言いませんが、でもちゃんと見てはいます。
Q:登録を強制させているわけでもないのですね。
└力をつけて結果を出す選手は自分の状態がどうであれ、やるべきことはできていて、自分と向き合う時間を作れるんですよ。
“心を鍛える”時代から、“整える”時代へ。変わる指導と、寄り添うツール
Q:自己管理をアプリで行う点についてどのような印象をお持ちですか。
└うちの場合、練習場所まで移動が発生することが多くて、移動に時間掛かるので帰宅してから寝るまでにかなり時間を取られてしまっています。例えばこの状況の中、ノートで振り返りなさいとなると時間的にかなり厳しくて、それがAtletaだと、練習帰りのバスの中で振り返りを登録できるじゃないですか。しかも練習直後に、記憶が鮮明なうちに振り返りができる点も含めてとても良いと感じています。
Q:選手たちもそれぞれ目標設定して頑張っていると思いますが、チームの雰囲気はいかがですか。
└すごく良いです。この時期、出場できる選手はどうしても限られて、チームの半数以上は出場できないことが確定している中、そんな選手も目標を更新しながら次に向けて頑張れているので、この状況もAtletaのおかげだと考えています。
Q:目標に向けて選手全員の意識が前を向けているという点もチームの強さだと感じます。
└昔は指導する上で『心を鍛える』みたいな言い方がされていたと思います。選手の心を指導者が壊して、そこから這い上がらせることでメンタルを鍛えるみたいな。ですが、今の子にそのやり方は難しくて、それよりも私は『心を整える』ことの方が大事だと思っているんです。心が崩れそうになったらしっかり整えて、頑張れる状態に指導者が導いていく。
これが今の時代に必要な指導だと考えています。
Q:昔とは環境や選手たちのバックグラウンドも違っていますからね。
└時代とともに目の前にいる選手たちが変わる中で、指導者もやり方を変えていかなければなりません。Atletaはその役割の一つを担ってくれていると思います。
選手には全てを教えず『自律』させる
Q:チーム理念として『選手の自律・チームの自立』といったキーワードを強く発信されている印象にあるのですが、このあたりの考え方についてお聞かせください。
└私は『選手が主体である』ことが最重要だと思っています。指導者が統率して指示を出し、それにただ従って練習させるスタイルは、競技力をつける意味では手っ取り早い方法かもしれませんが、私は選手にこれからのことまで考えて欲しいと思っています。
Q:同じような考え方をお持ちの指導者は他にもいらっしゃる一方、多感な高校生を指導する中で、そう簡単にはいかず悩まれている方も多いと思います。
└彼女たちは高校で全てが終わりではなく、むしろその先こそが大事です。陸上を続けるにしても、そうでないにしても、社会に出てからは、自分で考え、自分の力で道を切り拓いていく必要があります。この自分の力がすごく重要で、高校はその力を身につける最終段階だと考えています。だから私は、高校生にただ指示を出して従わせるのではなく、自ら考え行動できるような指導を意識しています。
Q:大田監督がこの理念のもと結果を出せているのには、何か特別な指導法や意識的なものがあるのでしょうか。
└『できるだけ全てを教えない』を意識しています。すると選手たちも、本当に気になることがあって、「知りたい!頑張りたい!」って気持ちがあると、自分から質問したり、調べた内容を確認しに来たり、そういった行動ができるようになってきます。『あえて待つ指導』ですね。