2022.01.31

それぞれの効果を知って実践しよう!メンタルトレーニング技法4選

アスリートのためのスポーツ情報ースポーツ医科学で強くなるー

目次

”トップアスリートの知見を多くの方に伝えたい”という思いから、
スポーツ医科学サポートの専門家集団である京都トレーニングセンター(※詳細は下記)に協力いただき、「スポーツ」に関して様々な角度からコラムを定期的に配信いたします。

今回はメンタル面の強化が必要となった場合、実際にどんなことをすればいいのか?方法などをご紹介します!
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目標設定や自己分析をした結果、メンタル面の強化が必要となった場合どんな技法を用いて心理スキルを磨いていくのでしょうか?

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目標設定や自己分析のやり方はこちらの記事をご覧ください!
自己分析と目標設定ってどうするの?
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1.リラクセーション技法

試合大会の場面では、「落ち着いて」、「肩の力を抜いて」、「リラックスして」といった言葉をよく耳にすることがあります。

この時「リラックスして」といわれてもどうリラックスすればいいかわからないということをよく聞きます。リラクセーション技法は先ほど示した逆U字曲線の「あがり」の状態に陥ったときに用いられます。

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試合などの重要な場面で本来の能力を十分に発揮するためには、自分の体と心の状態を冷静に把握し、目的とするパフォーマンスに適した状態に心身が調整される必要があります。

具体的には

などの技法が活用されています。

リラクセーション技法の中で最もよく利用されている呼吸法について簡単に紹介します。
人は緊張した時、心臓のドキドキを意識的に下げることはできませんが、呼吸は意識的にゆっくりしたり、早くしたりすることができます。また緊張すると呼吸が浅くなり、息苦しく感じることがあります。そこで穏やかな腹式呼吸を行っていきます。

今回は座った状態での呼吸法を紹介します。

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①イスにやや浅く腰かけ、背筋を伸ばします

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②目を閉じ下腹部に手を当てます

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③一度、口から大きく「ふーーっ」と息をはきだし下腹部をへこませます

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④下腹部を大きくふくらむように、鼻から3~4秒息を吸いこんでいきます

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⑤吸い込んだところで2秒息を止めます

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⑥すった時間の2倍の秒数、6~8秒かけて口から大きく「ふーーっ」と息をはきだし下腹部をへこませます

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⑦④から⑥までの手順を5回程度繰り返し行います。終わったら必ず※消去動作を行いましょう

check_red注意

呼吸法が終わった直後に急に立ち上がると、気分が悪くなったり、めまいがしたりということがまれにあります。
急に終わるのではなく、消去動作(自然な呼吸にゆっくりと戻しながら、頭を回したり、肩や足をゆすったりする)を必ず行うようにしましょう。

この呼吸法は緊張や不安になったときに行うことが多いですが、「落ち着こう、落ち着こう」と考えないようにすることです。イメージは酸素とともにエネルギーが入り、不快なエネルギーを吐いて外に出すといったイメージで行ってみましょう。何かにたとえてみてもいいと思います。

吸う・吐く時間は人によって秒数が異なります。日頃の練習から自分に合った呼吸法を見つけてみましょう。

2.イメージ技法

自分の競技内容について頭の中でシミュレーションをした経験はあると思います。より効果の高い方法で利用することで、自分の感覚をさらに高め、競技力の向上に役立てることができます。

イメージ技法の主な目的は

になります。

新しい技術を習得するときには頭でイメージをし、実際の身体活動を通して感覚的なイメージに発展していきます。また競技を行っているときの自分の感情や試合の実際の場面をイメージしてリハーサルを行うなど、からだとこころの感覚をすり合わせるには大変良い技法だと思います。

さらに「何をイメージしたか」に注目することも大事ですが、「イメージを通してどう感じたか」という部分にも着目してみましょう。イメージ技法の目的はイメージ能力の向上ではなく、あくまでも競技力向上です。イメージの中と実際の試合を比べ、プレーの感覚や自分の感情の変化の違いなどをしっかりと感じることが大切です。

3.注意集中技法

注意集中は、一般的に集中力と呼ばれるものです。

大事な局面で不安になることや、声援やヤジによって注意集中が途切れ、思うように実力発揮できないことがしばしば起きます。人は一度に多くのことに注意を向けることは難しいものです。本来注意を向けるべきもの以外のことが気になる、あれやこれやと様々なものに注意を向けてしまって注意散漫になってしまうとパフォーマンスの低下が起こります。

注意集中を高める技法も様々あります。

例えば数年前のラグビーワールドカップで少し話題になった「プレ・パフォーマンス・ルーティーン」というものです。
プレーの直前にあらかじめ決めておいた一連の動作を行うことで、プレー実行に適切な心理状態を作り出し注意集中を高めるものです。

例えば、

などがあります。

また短いポジティブなフレーズの言葉を自分に語り掛け、気を引き締めるトリガーワードといったものが有効になります。

例えば「この1本!」、「できる!」、「まだ終わってない!マーク確認!」といったことを言葉がけする技法です。

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注意集中技法の基本的な考え方

「あのときこうすればよかった」といった過去に起こった出来事や、「失敗するかもしれない」といった未来に予想される結果に注意を向けて集中するのではなく、今行うべきことに注意を向けて集中させることを目的としています。

4.積極的思考

積極的思考は、ポジティブシンキングやプラス思考とも呼ばれます。

心理的スキルの一つであるポジティブシンキングは、ストレッサーを自分にとって有利なものとして解釈し、競技に対する動機づけや意欲、自信の向上、最適な緊張状態の形成に役立て、覚醒水準を最適なレベルに導いて集中力を高め、パフォーマンスに対してプラスに働く思考と定義されています(猪俣,1997)。

ここで例を挙げてみます。一緒に考えてみてください!

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この状況の時、どちらの考え方をしますか?

①まだ10分ある!
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②あと10分しかない
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この2つの考え方によって「こころ」の状態はどう変わるでしょう?

①いける!大丈夫!
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②まずい…時間がない!
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このように残り10分という状況に対して2つの考え方になりました。そしてその結果「こころ」の状態まで変化してしまいました。

なぜこのように、考え方によって「こころ」の状況が変わるのでしょうか。

ある出来事(これをストレッサーと言い、ストレスになる要因のことを示しています)があったとき、人は様々な捉え方(認知)をします。その捉え方によって「こころ」の状態が変化してしまいます。
自分にとってマイナスとなるような捉え方を、トレーニングによって合理的に、自分にとってプラスとなるようにしていきます。

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もちろんすべての人がこの積極的思考をすればポジティブになれるということではなく、
その人の特性や競技特性の中で「ポジティブ」ということの考え方や意識が変わってきます。

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そのため、「自分は日頃何を考えている人間なのか」ということを振り返り、考えのクセを理解しておく必要があります。

これはセルフトークという自分の心の中での会話になります。

イメージとしては、漫画でプレー中のこころの中の描写がありますね。
あらゆる場面、調子が良い時、悪い時のセルフトークを把握します。すると、その時の考え方の違いが分かってくると思います。

普段のセルフトークが「自分にとってプラスなのか、マイナスなのか」を知るきっかけにして、マイナスなものはプラスなものに変えていくというトレーニングをしていきます。

スポーツメンタルトレーニングの技法を簡単に紹介していきました。もちろん他にもさまざまな技法があります。

人のこころは

に大きく分けることができます。

普段からどんなことを感じるのか、考えるのか、あるいは行動するのか、身体の状態はどうか、などを1つ1つ整理することがメンタルトレーニングの第一歩になります。

人には話し方やプレーのクセというものがあるように、感情や認知にはクセがあります。すぐ直すことが出来ればいいのですが、クセというものは1日2日で修正は難しいものです。やはり少しずつ修正していくしかありません。しっかりと自己観察をしてみましょう。

スポーツ心理の専門家も、すべてのアスリートをカバーできるほど多くはいません。
それぞれの指導者の方が、スポーツメンタルトレーニングのエッセンスを指導場面に取り入れて、選手のピークパフォーマンス向上に貢献していただければと思います。
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引用・参考文献
1)猪俣公宏編(1997)選手とコーチのためのメンタルマネジメント・マニュアル.JOC・日本体育協会監.大修館書店:東京.pp.85-94.
2)日本スポーツ心理学会編(2016)スポーツメンタルトレーニング教本 三訂版.大修館書店.
3)荒木雅信編(2018)これから学ぶスポーツ心理学 改訂版. 大修館書店.
4)日本スポーツ心理学会編(2008).スポーツ心理学事典.大修館書店.

コラムを執筆してくださった「京都トレーニングセンター」のご紹介

京都トレーニングセンターとは・・・?

ジュニアアスリートの強化拠点として 2016 年7月に京都府立丹波自然運動公園内に開所された、京都府立の施設。

競技成績の向上、自己記録の更新。地区大会、全国大会、更には世界へ。
京都トレーニングセンターを利用される方やチームが、それぞれの目標を達成できるよう科学的トレーニング・サポートを行っています。科学的トレーニング・サポートを行うために、筋力測定や体組成測定やフィールドテスト等の各種測定を各個人、各チームのニーズあった測定項目をテーラーメイドにて実施。
各種測定後には、データ返却(データフィードバック)にも注力し、測定結果に基づいたトレーニングあるいは、今後のアプローチについて指導者及び選手と相談しながら実施しています。

また、最大300名の宿泊施設も有しており、京都府立丹波自然運動公園の有する各種スポーツ施設も利用し、スポーツ医科学サポートを利用しながらの合宿も可能な施設です。
詳細はHPhttp://www.kyoto-tc.com/を御覧ください。

2017年当時のCMはこちら

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